2020 Fiscal Year Research-status Report
ペラギウス派神学思想の相互影響・発達史的観点による伝承史的・教会政治史的総合研究
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19K00125
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
山田 望 南山大学, 総合政策学部, 教授 (70279967)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ペラギウス / ペラギウス派 / クリュソストモス / アウグスティヌス / 陣痛 / 原罪論 / 女性観 / ユリアヌス |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、前年度のペラギウス派女性観とクリュソストモスのそれとの比較をさらに精査し、ペラギウス派内部の多様性に注目して、女性の陣痛に関する理解・位置づけが、ペラギウス、ペラギウス派の反霊魂伝遺主義者、クリュソストモス、アウグスティヌス、ペラギウス派ユリアヌスにおいて、如何なる相違点や共通点が見出せるのか分析を行った。陣痛観では、創世記3章16節「おまえのはらみの苦しみを大きなものにする。おまえは苦しんで子を産む」の解釈が問題となる。ペラギウスや反霊魂伝遺主義者の解釈は、章句の後半に集中する。クリュソストモスも一般信徒への説教17では同様に後半部を扱い、イブの陣痛はバベルの塔の物語の如く神話的原因譚として解釈され、イブの罪を「思い起こさせるため」であったと解釈される。しかしこれは、イブの犯した罪責までもが伝播し、女性は皆その罪責により罰せられるとのアウグスティヌスの解釈とは全く無縁であり、ここでアウグスティヌスはクリュソストモスの陣痛解釈を誤解したと言わざるを得ない。他方クリュソストモスは、オリンピアスという女性への個人的書簡では、当該句前半部をとりあげ、イブへの罰とは陣痛の痛みを重くすることであったとし、自由意志の行使により断固、悪魔の誘惑を退けるよう説き明かしたが、これはまさにユリアヌスの解釈に近い。アウグスティヌスが誤解したのは、マニ教禁令の圧力により双方が相手の主張を極論にまで曲解するよう神学的・政治的バイアスがかかった結果であったと考えられる。本研究成果は Pelagians’, Chrysostom’s and Augustine’s Different Views on Pain of Childbirth as Revealed through their Counsel to Women, と題し2021年Studia Patristicaに掲載予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全体で5年の研究計画のうち2020年度の進捗状況は、新型コロナウイルス感染拡大により、本報告者が勤務校において図書館長の重責を拝命していることもあり、想定外の業務を連日にわたって強いられていることもあり、当初の予定よりもやや遅れていると言わざるを得ない。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、海外での国際学会やシンポジウム、コロキウムなどが軒並み中止、あるいは延期されており、本報告者も、シンガポールで開催される予定であったAPECSS(環太平洋初期キリスト教教父学会)での発表ができなくなった。しかしながら、厳しいピアレビューを経て、今年度刊行予定のStudia Patristicaに、Pelagians’, Chrysostom’s and Augustine’s Different Views on Pain of Childbirth as Revealed through their Counsel to Women,と題する論稿を上梓して刊行される運びとなっている。また、当初2020年度刊行予定であった上智大学中世思想研究所編、『「原罪論」の形成と展開――キリスト教思想における人間観』(知泉書館)の出版予定が2021年度に出版時期がずれ込んだこともあり、ペラギウス派に関する記述に最新の知見を盛り込むことができた。アンチオケイア伝承の担い手であるモプスエスティアのテオドロスらの文献内容との比較は、予定していたところまで遂行することが叶わなかったが、半ばまでは進めることができたので、次年度さらに研究を進展させる予定である。また、新型コロナウイルスの感染状況が収束に向かいイタリアへの入国が可能となり次第、ローマ市内でのキリスト教救貧施設と目される考古学発掘現場の調査や検証を行うべく、そのための日本国内での文献レベル・作業仮説レベルでの準備作業を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に遂行できなかったペラギウス派とアンチオケイア伝承との関連性に関する文献学的、伝承史的、発達史的観点からの研究を2021年度もさらに進めていき、これまでほとんど顧みられてこなかったモプスエスティアのテオドロスらの文献との比較検証を完了させるところまで進展させる予定である。また、とりわけ女性観に関して、アウグスティヌスとユリアヌスとの最晩年の論争をまとめたOpus Imperfectumの翻訳・註解作業も進めながら、双方の論争の発達史的研究を押し進めていく予定である。さらには、新型コロナウイルス感染拡大の状況が収束に向かい、イタリアへの渡航が可能となり次第、Vatican, Augustinianum教父学研究所での文献調査・研究や、研究所スタッフとの学問的交流、ローマ市内における4-5世紀のキリスト教救貧施設や内部の壁画群に関する調査、文献研究と考古学研究との照合についてもさらに研究を進展させていく予定である。また、2020年度に開催されなかった国際学会やコロキウムなどについても、開催・渡欧が可能となり次第エントリーして、国際的レベルでの学会発表や研究交流を通して、研究の成果を披露しつつ最新の研究成果や知見の収集を心がける予定である。具体的にはAPECSS環太平洋国際教父学会や、次回は2023年に開催予定のOxford国際教父学会での発表が可能となるよう順次、研究発表に備える作業を進める予定である。
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Research Products
(2 results)