2021 Fiscal Year Research-status Report
ペラギウス派神学思想の相互影響・発達史的観点による伝承史的・教会政治史的総合研究
Project/Area Number |
19K00125
|
Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
山田 望 南山大学, 総合政策学部, 教授 (70279967)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ペラギウス / ペラギウス派 / アウグスティヌス / エクラヌムのユリアヌス / クリュソストモス / 東方神学 / 女性論 / 陣痛解釈 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、前年度Studia Patristica (Peeters)に投稿、掲載申請した英文論考に、その後の新たな研究知見をも加えてペラギウス派陣営とアウグスティヌス陣営との論争の経緯や、その神学的・人間学的本質の相違、さらにその相違が次第に解消不能なほど乖離していく過程についても、発達史的、教会論的観点からの考察を深めていった。その研究過程において、アウグスティヌスとエクラヌムのユリアヌスとの激しい論争がエスカレートしていくまでの間には、ペラギウス派陣営の、とりわけ女性たちによるローマでの活動や、アウグスティヌス、ヒエロニュムス陣営とのローマならびに北アフリカにおける各々独自のアスケーシス理解による教会共同体の発展・展開の存したことが明らかとなってきた。ペラギウス派は、おもにローマ市、北イタリア、ナポリ周辺、シチリアといったイタリア本土を活動拠点とし、専ら都市生活におけるキリスト者女性たちの教育・慈善活動を実践の場として展開させていた。他方、ヒエロニュムスはエルサレム近郊をも含む東方の荒れ野や砂漠地域、またアウグスティヌスは北アフリカ、ヒッポの周囲という、どちらかと言えば田園・農村地域が主な活動領域であった。これら両陣営の相異なる自然・活動環境、活動境遇の相違が、各々の神学的実践活動の具体的内容の違いとも不可分に結びついていたのではないかと推察される。 以上の研究内容については、2021年8月28日開催の「東方ギリシア教父と女性ー連続公開研究会 第三回」において発表を行い、さらにその内容も含めて、教友社『古代キリスト教の女性ーその霊的伝承と多様性』という論集に60頁を越す論考として出版した。また、昨年度投稿した英文論考にも校正の過程で以上の新たな知見をも盛り込んだ論文が、Peeters出版のStudia Patristica 第128巻に収録、出版された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度も新型コロナウイルス感染拡大により、海外での学会や研究会などに参加することができず、また、イタリア、ローマへの研究調査など、海外研究出張も行うことができなかった。研究は専ら国内における研究会や学会に限られたが、こちらも所属する大学で拝命している図書館長職により、2021年度の大学創立75周年記念事業として図書館のリニューアル事業に多くの時間や労力を割くことを余儀なくされたこともあり、予定していたところまでの研究が進まなかった。しかし、少しずつコロナ禍の状況も改善されてきており、海外での学会なども対面による開催が再開され始めているので、次年度は、2021年度の遅れを取り戻して更なる研究の遂行を図りたいと考えている。なお、2022年12月より9か月間、所属大学から研究休暇を取得することが認められたため、この研究休暇期間をフルに活用して本科研研究を格段に進展させるよう、その間の研究拠点の海外への変更と作業仮説の新たな更新を予定している。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度に、2022年12月から9か月間の海外における研究休暇の取得が所属大学より承認された。これを受けてVaticanのAugustinianum教父学研究所に客員研究員としての在外研究を申請したところ、G.Caruso所長より受け入れるとの承諾を得ることができた。本科研研究テーマの1つは、ローマ市ラテラーノ地区で発掘されたサン・ジョヴァンニ病院地下の発掘調査結果と、本科研研究遂行者によるペラギウス派に関する文献研究の成果とをつき合わせることで、発展史的・教会論的研究を学際的に進化させるという内容である。Vatican、Augustinianum教父学研究所にて在外研究を行うことは、本研究を格段に進展させることが十分に期待されるものである。また、受け入れる研究所のG.Caruso所長や、Prof. Dr. Angelo Segneri教授も、本科研遂行者によるローマでの学際的研究に多大な関心を寄せており、新たな国際的共同研究へと発展・展開させられる可能性も見込まれる。 2022年度には、以上のVatican, Augustinianum教父学研究所での在外研究も含めて、ペラギウス派の拠点の1つであったローマ市におけるアスケーシスに基づく慈善活動の実態解明と、同時にコンスタンチノーポリスのネストリオス派との関係、さらには、北アフリカにおけるアウグスティヌス陣営や、アレキサンドリアのキュリロス陣営との関係などに関するより多角的、立体的な文献研究をも進展させる計画である。 なお、研究休暇期間中、所属大学からの研究費補助が出ないため、2021年度に未消化の科研費も含めて、2022年度と2023年度の科研費の相当額を、海外研究出張関係の経費に充てたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
まず第一に、新型コロナ感染拡大の影響により、海外の国際学会での発表が全く行えなかったため、海外出張旅費の計上ができなかったことが理由としてあげられる。 第二には、2021年度に、所属する大学から、2022年12月から9か月間の海外における研究休暇の取得が承認された。これを受けてVaticanのAugustinianum教父学研究所に客員研究員としての在外研究を申請したところ、受け入れるとの快い承諾を得ることができた。この2022年度から2023年度の在外研究により本科研研究が格段に進展することが期待されるが、この在外研究は当該研究休暇期間中、所属大学からの海外研究出張関係の補助費(滞在費、日当など)が、往復の旅費以外は全く出ないことになっている。他方、イタリア、ローマ市における宿泊代は他の都市よりも非常に高く、さらに円安により一層、滞在費用が嵩み、加えて、現在、日伊間の通常航空郵便がストップしており、物品輸送のために特急便(Fedexなど)を利用するしかなく、これらの理由から、在外研究前後ないし期間中の経費が非常に嵩むことが十分予測される。そのため、2021年度に未消化の海外研究出張旅費分や、購入を遅らせることができた物品費など未消化の科研費を2022年度に繰り越して、2022年の海外研究出張関係の経費に相当額を充てたいと考えている。 以上が次年度使用額発生の理由と使用計画である。
|
Research Products
(3 results)