2021 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本の「科学」と伊波普猷――科学思想史から「沖縄学」を照射する
Project/Area Number |
19K00126
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
三笘 利幸 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (60412615)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 伊波普猷 / 科学 / 沖縄学 / 言語学 / 優生思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
過年度同様、伊波普猷が接した当時の最先端「科学」である進化論、優生学、人類学などの基礎的文献を渉猟し、伊波の思想形成の「場」を総体として捉えることを中心に研究を進めた。また、本年度もコロナ禍のため、諸資料に迅速かつ連続的に当たることが不可能な状況が続いた。こうした制約はあったが、以下のような内容で研究は進めた。 伊波の思想形成のなかで、東京帝国大学在学から卒業する時代における言語学はもちろん、広く社会学やあるいは優生思想にまで、当時の学的状況を追跡し、伊波の思想とかかわりについて考究した。当時の社会学は外山正一に象徴されるように社会ダーウィニズムの大きな影響下にあった。また、優生思想は丘浅次郎の活動に見られるように、その学的深化よりも広く一般に受け止められていった。伊波はその意味では言語学のように(その当時のレベルではあれ)学問的なものからいわば一般化され通俗化された進化論や優生思想までをも広く彼の思想の中に取り入れていったのだった。そこから彼の思想形成それから沖縄に戻ってからの啓蒙活動を捉えなおし、特に『沖縄女性史』に見られるような伊波のいわば「近代的」ともいえる思想にどのようにつながるのかを詳細に追った。伊波をとりまく「科学」は多分に偏見や差別が含まれていて、伊波もその影響下にあったことはまちがいない。その「科学」が伊波に偏見、差別を植え付けつつ、逆に、沖縄という偏見、差別のまなざしのもとにさらされるという出自を抱える伊波が、その「科学」をどのように受け止め、消化していくのか。このあたりの思想の襞のようなものにまで立ち入くことが重要であり、ただ伊波の「限界」といったものを確定するので満足するのではなく、科学思想史の中で伊波を論じる論考を準備している。
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