2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00130
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
濱崎 友絵 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (90535733)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 音楽伝承 / トルコ系移民と音楽 / ディアスポラ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ドイツにおいてディアスポラ下にあるトルコ系移民の音楽伝承のメカニズムを明らかにすることである。1960年代以降、ドイツに定住していったトルコ系移民たちは、音楽組織や社会文化的自助組織であるデルネッキ(協会)あるいは音楽学校を創設し、オスマン音楽や民俗音楽など、いわゆる伝統音楽を次世代に受け継いできた。本研究では、とくにトルコ民俗音楽に焦点を当て、祖国から離れた現代ドイツ社会の中でこの音楽が再編され、伝承され形づくられていくメカニズムをミクロ的観点から描き出すことで、ディアスポラ下における音楽変容の問題を検討するものである。 上記目的のため、2019年度においては、とくにディアスポラ研究と音楽にかかわる二次資料の収集および読解を中心におこなってきた。「ディアスポラ」の用語が含意する意味は、1970年代以降、脱領土化に関する関心の増大にともにない拡張され続けており、音楽学領域においても「拡張され過ぎた」この用語の扱いとともに方法論の問題点が指摘されている[Slobin:2003]。これまでの音楽学領域におけるディアスポラ研究は、Ramnarineが指摘するように、「父祖の地 homeland」との関係性を軸にしたナショナリズム、トランスナショナリズムを問題から、記憶や「伝統の保存」、さらにパフォーマンスやサウンドの見出される「新しさ」を扱うもので、その対象は様々となっている[Ramnarine:2007]。本研究は、こうした交差する視点を動態的に描き出すことをも目的とするため、本年度においては、ディアスポラ下における「当事者」と観察者、外部権力の三つの分析空間を措定するツェン[Zheng:2010]や、ドイツのトルコ系移民のアイデンティティの多層性を指摘する石川[2011]らの成果を参照点としつつ、その方法論の整理と検証をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度においては、研究の方法論の検討に加え、現地でトルコ系移民のトルコ民俗音楽実践に関する調査を計画していた。しかしドイツでの調査が実施できなかったことから、とくに本研究で重視する民謡の楽曲の習得プロセスや「教え手⇔受け手」の双方間でおこなわれる音楽実践と交渉の実態などについて参与観察することが叶わなかった。そのため令和元年度(平成31年度)においては、研究の方法論の検討に重点を置くこととし、文献資料の収集と読解、ドイツのトルコ・コミュニティに関する情報収集をおこなった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度においては、引き続き方法論の検討を進めつつ、ベルリンにて現地調査(トルコ音楽学校およびデルネッキでの質的調査)を予定している。なお、昨今のイスラームを取り巻く状況と相まって調査には困難が予想されるが、その場合には調査対象となる組織を変更するなどして柔軟に対応しつつ、設定した研究課題に取り組んでいく。また、コロナ禍の影響により現地調査が実施できない事態になった場合は、音楽学のみならず、文化人類学や社会学領域の成果も参照しつつ、方法論と分析フレームの検討をおこない、研究の進展を図る。
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Causes of Carryover |
(理由) 初年度に計画していた現地調査を実施することができなかったため、未使用額が生じることになった。 (使用計画) 2019年度の未使用額については、2020年度請求分とあわせて、文献資料の収集および現地調査による予算執行を予定している。
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