2019 Fiscal Year Research-status Report
ファシズムにおける「崇高」の美学と政治の関係をめぐる批判的考察
Project/Area Number |
19K00133
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石田 圭子 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (40529947)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 政治と崇高 / ファシズム / ナチズム / 崇高の美学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の初年度にあたる2019年度は、まず政治と崇高の関係性について問うという本研究の基礎を固めるために、カント、バーク、リオタールといったこれまでの代表的な崇高論について批判的読解を行った。また、崇高の美学について論じた二次文献の収集に努め、それらの内容整理も行った。政治と美学の関係について述べた文献、とくにMichael J. Shapiro著The Political Sublimeを念入りに読み、内容のメモを作成した。そのうえで、今後の研究の基盤とするべくこの段階までの研究成果をまとめ、それを第21回国際美学会で発表した(開催地ベオグラード、発表題目The Problem of the Political Sublime in the Case of Fascism) 。 加えて、ファシズム美学と崇高の関連性について考察するうえで重要な参照先として考えているK・H・ボーラーの『突然性』(Ploetzlichkeit, 1981)の研究を進め、その成果発表を第70回美学会全国大会で行った(発表題目K・H・ボーラーの『突然性(Ploetzlichkeit)』をめぐって)。さらにその内容を論文としてまとめ、学会誌『美学』に投稿し、受理された。この論文は2020年6月に発行される『美学』(第256号)に掲載される予定である。 また本研究では、政治と崇高の関係をめぐる理論的研究を補完するべくファシズム(ドイツおよび日本)の具体的表象の研究を同時に進める。今年度はナチズム下で作られた造形美術作品(美術・建築)を現地で多く実見し、それらに関する資料を手に入れることができた。さらに大学のゼミでThe Culture of Japanese Fascism(ed.by Alan Tansman, 2009)を読み、日本のファシズム期における美術について考察を進めることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初に立てた本研究の目的は大きく分けて以下の3点である。①政治と崇高をめぐる理論的研究②ナチズムと日本のファシズムの視覚表象を対象に「崇高」という観点から考察する。③以上の2点を総合した観点からファシズムと崇高の関係を考察し、崇高の美学がイデオロギー化していく機制について考える。本年度は①と②を進める予定であった。①に関しては概ね順調にすすんでおり、ひとまず今後の研究を進めて行くうえで理論的足がかりとなる考察をまとめることができ、K・H・ボーラーについての論考も完成させることができた。他方で、当初予定していたド・マンの『美学的イデオロギー』の読解にまで手をつけることができなかった。また、②に関しても初年度予定していた範囲までは概ね進み、ナチズム下での美術作品や作品展についての文献の収集を進めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度も引き続き①政治と崇高をめぐる理論的研究②ナチズムと日本のファシズムの視覚表象を対象に「崇高」という観点から考察する という二つの側面から研究を進める。①については、昨年度国際美学会で発表した内容について、さらに詳細に調査と考察を進め、論文として完成させる予定である。そのために必要な文献の批判的読解と不足している文献の収集・読解・情報の整理を進めていく。②については、主に昨年度集めた文献の読解と情報の整理を進めていく予定である。さらに、2021年3月には海外の研究者を招聘して日本のファシズムの表象をめぐる国際シンポジウムを開催する予定である。ただし、コロナウィルスの影響が長引く場合には中止もしくは延期となる可能性がある。
|
Causes of Carryover |
本年度の前期は2018年10月の科研費申請後に決定した海外派遣(別予算:派遣決定時期2019年12月)で欧州に滞在することになったため、当初予定していた外国旅費を使用せずに研究発表や調査を行うことができた。また、資料収集・調査のために当初予定していた東京への出張が、台風禍による学会中止や新型コロナウィルスに関わる出張・外出禁止令に伴い不可能になったため、計上していた国内旅費分が余ったため。加えて、当初予定していた図書の購入額と実際の購入額の間に誤差が生じたため。翌年度に繰り越した予算は来年度(開催予定時期2021年3月)開催することになった国際シンポジウム開催費用に充てる予定である。
|