2020 Fiscal Year Research-status Report
ファシズムにおける「崇高」の美学と政治の関係をめぐる批判的考察
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19K00133
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石田 圭子 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (40529947)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | K.H.ボーラー / ファシズム / 突然性 / ナチズム / ヒトラー |
Outline of Annual Research Achievements |
まず昨年度から引き続き、本研究の課題の(2)として挙げた事項、すなわち、「C・H・ボーラーの美学、とくに彼の著書『突然性』を参照しながら、ファシズムとの関係から「崇高」をどのように説明づけられるかについて考え、崇高の美学の内容について再検討する」という課題を進めた。その研究結果をまとめたものを昨年度学術雑誌に投稿していたが、今年度「カール・ハインツ・ボーラーの「突然性(Ploetzlichkeit)」をめぐって」という論文として掲載することができた(『美学』第71号)。この研究の結果、「崇高」をその起源のひとつとする美的「突然性」は、連続的時間とイデオロギーや思想への再接続から―したがって歴史からも政治・社会・日常からも―切り離された、刹那的で主観的な美的経験であるがゆえにファシズムの驚愕や恐怖、破壊とは一致しえないとする、というボーラーの主張を明らかにすることができた。そしてそこから美的崇高とファシズムとの一定の距離を確認することができた。しかしながら、一方ではそのアナーキズム的「無」が政治的イデオロギーに占拠される可能性についてもあらためて考察する必要性があることが明らかになった。これについては今後も引き続き考察していく予定である。また、今年度の後半はヒトラーの芸術論に焦点を当てて研究を進め、ヒトラーの芸術文化に関する演説を集めたReden zur Kunst- und Kulturpolitik 1933-1939, Robert Eikmeyer (ed.), Frankfurt a. M., 2004.の翻訳に集中し、その調査結果をまとめる論文執筆を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題のひとつであったボーラーの「突然性」についての研究を論文としてまとめ、査読を経て学術雑誌に発表することができた。また、ナチズムの美学について考えるためにヒトラーの芸術論を明らかにするという課題に取り組み、それについての調査と論文執筆を進めることができた。さらに研究を推進するにあたっての文献調査・収集も順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在「ヒトラーの芸術観:その由来・芸術と政治の接点をめぐって」という論文を執筆している。この論文の内容は今年度中に学会で発表し、さらに学術雑誌に発表する予定である。この論文は、これまで必ずしも丁寧に分析されてこなかったヒトラーの芸術観を明らかにし、そこからナチズムにおける芸術と政治の接点がどこにあったのかを明らかにしようとする試みである。この課題は本研究の申請時には挙げなかったものであるが、ナチズムの美学を明らかにするためにまず取り組む必要があり、この試みはファシズムにおいて「崇高」という観点がどこまで政治と関係しているのかについて考察する本研究にとっても重要なものであると考えている。
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Causes of Carryover |
今年度はドイツでの調査を行う予定であったため旅費を計上していたが、コロナ禍により海外渡航が不可能になったため。予定していた海外調査は2021年度以降に行う予定である。
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