2021 Fiscal Year Research-status Report
ファシズムにおける「崇高」の美学と政治の関係をめぐる批判的考察
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19K00133
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石田 圭子 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (40529947)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 崇高の美学 / ヒトラーの芸術論 / 第三帝国の戦争画 / ナチズム |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の実績としては、まず、昨年度から取り組んでいたヒトラーの芸術論の考察について、論文(「ヒトラーの美学を再考する:芸術と政治の接点をめぐって」)を完成させたことが挙げられる。この研究によって本研究課題の①【「崇高の美学」と政治の関係】②【ファシズム美学・思想と「崇高」】について考える上での重要な手がかりを得た。 また、第二の実績としては論文「第三帝国の戦争画について」を挙げることができる。これは主に、研究課題③【ファシズムの表象研究】に関わるものであり、これによって具体的な表象に基づきナチズムの崇高の様相を明らかにすることができた。研究課題③の一環として、村山知義の戦時中の韓国歴史劇の演出についても研究を進めた。これについても論文(村山知義と〈春香伝〉 : 村山の演劇論との関連から)を完成させた。この研究内容は2022年1月末にベルリン自由大学主催で開催された国際会議“Modernity in Korean Art Reconsidered! “でも発表した。 さらに、以上の研究に基づいてナチズムと崇高の美学の関係について研究を進め、論文執筆に取り組んだ。その完成に向けて、崇高の美学への批判的観点に立ちつつ、崇高の美学はいかにして政治の領域において利用されるのか、崇高の美学はナチズムにどのように、どこまで関係づけられるのかという問いについて考察した。より具体的には、カントによって完成された近代の崇高論の限界について考察し、崇高を政治について論じる可能性を探り、さらにこれまでファシズムについて言及されてきた「政治の美学化」を崇高という観点から捉えられるのかを吟味した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題①【「崇高の美学」と政治の関係】②【ファシズム美学・思想と「崇高」】③【ファシズムの表象研究】それぞれについて研究を進め、論文3篇を完成させ、その成果をふまえてさらにまとめる論文を現在執筆することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在進めている研究を「ナチズムと崇高の美学」という題の論文として完成させる予定である。そのために、今後さらに、アルフレート・ローゼンベルクとヒトラーによる崇高への言及を取り上げて、ナチズムにおける崇高の内容について考察することを予定している。また、バークにおける崇高論やリオタールなどの新しい崇高論を参照しながら、崇高とナチズムがどのように関わっているのか、あるいはどのようにその美学の内容がずらされているのかについても考えたい。 その後は課題③のファシズムの表象研究について、第三帝国の重要な建築家であったパウル・トローストの建築に焦点を当てて進める予定である。すでに主要文献は入手しているが、必要に応じて文献を取集しつつ、それらを読み進めて調査・分析を行う。そこからナチズムにおける崇高のあり方についてさらに具体的に考えたい。これについても今年度中に論文をまとめるつもりである。また、これまでに執筆した論文をまとめ直して著書を出版するための準備を進めたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、予定していた出張を実施することができず、旅費として使用できなかったため。また、その際に入手する予定の図書・文献購入費に充てることができなかったため。次年度使用額は2022年度の図書購入費や出張の旅費等に充てる予定である。
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