2022 Fiscal Year Research-status Report
ファシズムにおける「崇高」の美学と政治の関係をめぐる批判的考察
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19K00133
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石田 圭子 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (40529947)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ナチズム / 崇高の美学 / パウル・ルートヴィヒ・トロースト / 第三帝国の建築 / エミール・ノルデ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は本研究の当初から取り組んできたテーマ、すなわち「ファシズムを対象として崇高の経験とその美学の再検討の可能性について考察し、そこから崇高の美学は政治とどのように関わるのかを再検討する」という問題について、ナチズムに焦点を当てるかたちでまとめ、その結果を論文「ナチズムと崇高の美学」として発表した。そこではカント、バーク、リオタール によって唱えられた崇高論を批判的に吟味する一方で、ヒトラーやローゼンベルクの言説を紐解き、それを通じてナチズムにおける崇高の通俗化がどのようになされているのかを考察するとともに、現代においてはむしろそうした通俗化した崇高をめぐる問題が切実であることを指摘した。 また、本研究の課題③「ファシズムの表象研究」に関連して、第三帝国の建築様式の創始者とされるパウル・ルートヴィヒ・トローストの建築に焦点を当てて考察を行い、論文「パウル・ルートヴィヒ・トローストーナチズム建築の起源をめぐってー」を発表した。研究では、従来もっぱら新古典主義として理解されてきたトローストの建築がいかにモダンとモダニズムの経験と接していたかを明らかにした。この研究は「崇高の美学」という中心的テーマからやや外れて発展したものではあるが、ファシズムの表象研究としては重要な内容を明らかにしえたと考える。というのも、これまで一般的にファシズムの美学は後退的で伝統回帰主義的であると考えられ、それによってファシズムのイメージが決定づけられてきた側面があるためである。ファシズムの美学の見直しは、ファシズムが近現代とどのような関係を結んでいたのかをあらためて見直す重要な契機となる。そのため、この問題についてさらに研究を進める必要があると考え、「エミール・ノルデとナチズム」をテーマに研究を進めた。現在以上の研究内容をまとめ、単著として発表する準備を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定としては、本年度中に本研究課題の成果も含めた内容を著書としてまとめる予定であったが、本研究を進める中で上記の新たな展開があったため、それをさらに進め研究内容をより高めて意義あるものとするために、当初の予定よりも研究期間を一年延長することにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究課題を遂行する中で書かれた複数の論文を著書としてまとめ、刊行する予定である。すでに出版社とは打ち合わせ済みであり、年度末までには研究成果を著書として発表できる見込みである。今年度は刊行に向けて、現在進行中であるエミール・ノルデとナチズムの関係についての研究を完成するべく進めるとともに、これまでの研究内容を再度見直し、不足している調査を行い、必要に応じて手直しと調整をしていく予定である。
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Causes of Carryover |
購入予定の図書と資料について当初予定していた金額と実際の購入金額に差額が出たため。また、今年度の初めに予定していた海外出張をコロナのため中止せざるをえなくなったため。
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