2023 Fiscal Year Annual Research Report
ファシズムにおける「崇高」の美学と政治の関係をめぐる批判的考察
Project/Area Number |
19K00133
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石田 圭子 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (40529947)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ナチズム / モダニズム / 退廃芸術 / エミール・ノルデ / 崇高 / 政治と美学 / 戦争画 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度にあたる今年度は、本研究の研究成果をまとめ、公表するために著作の執筆に注力した。その結果、単著『ナチズムの芸術と美学を考えるーー偶像破壊(イコノクラスム)を超えて』(三元社)を完成、出版することができた。本著は本研究助成の期間中に書き上げた3篇の論文「第三帝国の戦争画について」「ナチズムと崇高の美学」「パウル・ルートヴィヒ・トローストーーナチズム建築の起源をめぐって」の修正稿および新たに執筆した章「戦後におけるエミール・ノルデの『非ナチ化」と神話化をめぐって」から成る。このノルデに関する章を書き上げるために、ノルデに関する最新の研究をはじめ、これまでのノルデ研究を参考にしながら調査と考察を行った。これによって、ナチズム芸術をめぐる戦後の言説がその意味を強く規定してきたことを明らかにし、著書全体を貫く重要な歴史的視点を示すことができたと考える。 本研究は、崇高をめぐる緊張や矛盾がファシズム期の視覚表象においてどのように現れ利用されているか、あるいは従来の崇高の美学がどのように変質させられているかを分析し、崇高の美学と政治の関係について再検討を試み、崇高の美学がイデオロギー化していく規制について考察することを目指すものであった。しかし、研究期間中にナチズム芸術の具体的な表象や、それをめぐるさまざまな言説について調査することを通して、当初の目的を達成しえただけではなく、ナチズム芸術に関する新しい事実を提示し、今後のナチズム芸術および美学に関する研究に貢献しうる重要な視点を供給しえたと考える。 また、ナチズムの戦争画研究を進めていく中で、イギリスの戦争画プロジェクトがそれに大きな影響を与えていたことを知ったため、それについての研究もさらに進め、その研究成果を学会で発表し、論文としてまとめた。派性的に生まれた本研究も本年度の実績の一つである。
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