2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00136
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Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
齋藤 桂 京都市立芸術大学, 日本伝統音楽研究センター, 講師 (20582852)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 股旅 / 日本音楽 / 舞踊 / 近代 / 流行歌 / 大衆芸能 / 音楽学 / 芸能史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、本課題の研究対象である「股旅もの」について、(1)文献と(2)実際の上演の双方から調査を行った。(1)文献については、本課題が対象とする近代だけではなく、その前提となる近世後期・幕末における博徒ややくざ者に関する文献を収集・精読した。また、国内の文化現象を相対化するために、国外の類似の芸能に関する文献の収集も行った。(2)実際の上演については、10月27日に石巻市桃生総合センターで行われた「股旅演芸東北大会」に行き、調査を行った。 これらの調査により、現在のところ次のような暫定的な成果が得られている。 明治期に入り、近世以前の文化・芸能に国家的なアイデンティティを付与しようとした結果、やくざ者を主人公にした芸能に関して、その倫理的な是非が問われることとなった。1920年代になり、それまでのやくざ者とは異なった、単独でさすらう博徒=股旅ものという新しいキャラクター類型の創出には、外地をさすらう任侠もののイメージが投影されており、また近世/近代の区分を問い直すものともなっている。さらに「股旅もの」は、社会規範を逸脱する存在でありつつ、特に1940年代に入ってからは「日本精神」の体現としてポジティヴに捉える言説も散見されるようになったことが分かった。加えて、現在東北地方で多く上演されている「股旅舞踊」「股旅演芸」は、戦後すぐに日本各地の農村を中心に流行した「やくざ踊り」へのノスタルジーから出発していること、またそれが伝統的な舞踊のシステムである家元制を取り入れていること、さらに現地の大衆演劇等その他の芸能と密接な関係にあることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献の収集・現地調査ともに実施することができ、おおむね当初の計画通りに進んでいると言える。しかし、3月18日に行われる予定であった「股旅演歌舞踊ショー」については、新型コロナウィルスの問題に関連して中止となっており、その他3月後半の遠方での文献調査にも支障が生じた。ただし、年度末が迫って生じた問題であるため今年度に限って言えば影響は小さかった。
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Strategy for Future Research Activity |
理想としては、当初の計画通りに、各図書館・資料館における文献調査および股旅舞踊に関する現地調査を中心に研究を進めたい。特に股旅舞踊に関しては、当該芸能に関わっている人々に複数回取材をし、技術の習得過程や、実践に関わる人的ネットワークを明らかにしたいと考えている。また、文献資料を中心に1920~30年代に流行した「股旅もの」の流行歌の資料を収集し、楽曲・歌詞分析を行いたい。 しかし、2020年4月現在続いている新型コロナウィルスに関する問題の影響で、もし調査対象であるイベントの中止、あるいは図書館・資料館の閉館、都道府県をまたぐような移動の自粛等が要請された場合には、既に入手済の文献、オンライン文献のさらなる分析や、インターネットを活用した取材に切り替える。その際は、移動を伴う調査はなるべく最終年度に回したいと考えている。
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Causes of Carryover |
3月に開催される予定であった調査対象のイベントが中止となったため、調査旅行を行わなかった。またいくつかの購入予定の資料について、年度内の納品が難しかったために、購入を見送った。2021年度には、この次年度使用額を用いて、イベントの調査については類似のイベントを追加で調査し、また資料に関しては追加で購入したい。
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