2019 Fiscal Year Research-status Report
投影と視覚レトリック――17世紀オランダの騙し絵と遠近法にみる視覚の生成
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19K00138
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
柿田 秀樹 獨協大学, 外国語学部, 教授 (10306483)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 検尿 / 解剖 / 騙し絵 / ゴッドフリード・シャールキン / 錬金術 / 風俗画 / イソクラテス / レトリック |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、錬金術と医術の接点に着目し、室内画に登場した特殊なジャンルとしての検尿の風俗画に焦点を合わせた。17世紀オランダで描かれた検尿の風俗画と解剖画について考察した。関連資料を収集し、先行研究の成果を吸収した。オランダ国立美術館所蔵の検尿にまつわる版画や資料を集め、国立ブールハーフェ博物館(Rijksmuseum Boerhaave)で研究論文などの資料もあたり、17世紀オランダでの検尿の歴史と医学の変遷について調査した。具体的には、調査に基づいて、ゴッドフリード・シャールキン(Godfried Schalcken)の『医者の診療』を中心に検尿の絵画を仔細に観察し、錬金術から近代科学へと変遷する中で、偽医者による検尿が錬金術とも重なりつつ、医術と魔術が混在する検尿の空間に科学的視点を屈折させる騙し絵の構図と投影の構造が見られることを考察した。さらに、当時の検尿が擬似医術であった一方で、それは解剖の医術と同列に考えられており、2つの医術を結びつける生と死の存在論であることを見出した。こうした成果の一旦を論文「視線の両義性――17世紀オランダ風俗画にみる検尿の騙し絵」として『<みる/みられる>のメディア論』(近刊)に執筆し、一般に披瀝した。 また、これらの調査とは別に、生成論としての視覚レトリックを構築する際、古典的源泉となりうるイソクラテスのレトリック論を、ギリシャ哲学セミナーにて発表し、その内容は『ギリシャ哲学セミナー論集』Vol. XVII に所収された。イソクラテスが「哲学」と呼ぶレトリックが生成する王の主体をテクストのパフォーマティブな次元で生じる出来事として考察し、主体を文化的に構成し新たに生成する力をレトリックとして分析した。口頭ではない、書かれた文字がもたらした散種の力を抽出し、視覚メディアである書記文化が当時の公共圏に新たな観念を産み出すテクスト戦略からイソクラテスのレトリック論が導出されることを分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ギリシャ哲学セミナーでの学会発表及びオンライン出版、分担執筆した『<みる/みられる>のメディア論』の刊行により、初年度としては本研究課題の成果を発表する機会を十分にもつことができた。今年度は、とくに申請者のこれまでの研究との接続を図るなかで、17世紀の検尿医術と文化実践としての風俗画に関して「騙し絵」という観点から考察することとなった。近代に移行しつつあったオランダでの検尿という医術の調査はある程度行うことができたので、現地調査によって収集した資料の分析を中心に行った。このことで、研究期間全体の研究計画の一部は遂行できた。一方で、錬金術と騙し絵の関係、歴史的変遷やそれらの独自性等については引き続き調査と分析が必要である。騙し絵を考察したファン・ホーホストラーテンが参照するイタリア・バロック建築や絵画についても翌年度以降に調査する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、室内画の知の側面について引き続き検討を続ける。そのために、同時期のオランダでのレトリック概念の受容、そしてバロック芸術の領域における視覚の位置付けに関する調査・検討にも着手する。17世紀オランダで重版されたジュラーデス・ヴォシアスによるレトリックの教科書や、演劇や詩の朗読会等のスペクタクルを競技会で市民に披露した当時のレトリック協会などのイメージを分析し、市民文化の中で実際に流通した演示的レトリックの様相を精査するとともに、視覚文化論と表象文化論での研究成果を踏まえ、視覚技術と視覚に関する知が絵画や建築などの表象の中でどのようにレトリックとして受容されたのかについて調査・検討する予定である。
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Causes of Carryover |
年度末に調査に行く予定であったのが、コロナの影響で延期せざるを得なくなったため。 また、データの編集に適切な機能を持つPCの販売が2020年度になる見込みだったため、今年度購入する予定。
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