2021 Fiscal Year Research-status Report
投影と視覚レトリック――17世紀オランダの騙し絵と遠近法にみる視覚の生成
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19K00138
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
柿田 秀樹 獨協大学, 外国語学部, 教授 (10306483)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Franciscus Junius / 『古代の絵画についての三冊』(1638) / 発想 / 配列 / 演示的レトリック / 情動 / モノ / 騙し絵 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度もコロナ禍で予定の現地調査ができず、手元の文献を主に2つの領域で読み進めた。第一に17世紀オランダの芸術論、第二にその芸術論で重要とされる情動の次元で力を発揮するモノについての文献である。 17世紀オランダの芸術論では、フランシスカス・ユニウス(Franciscus Junius)の『古代の絵画についての三冊(The painting of the ancients in three bookes)』(1638) (以下『古代の絵画』)を中心に読み進めた。『古代の絵画』は視覚芸術に関する古典の最初の包括的概説であり、ヨーロッパの古典芸術理論の礎石となったとされる。 『古代の絵画』が重要な理由は、当時盛んに読まれていたキケロやクインティリヌスのみならず、イソクラテスやフィロストラトス等の文献も引用しつつ絵画の芸術論を論じる点にある。この文献読解により、17世紀オランダの芸術論がイソクラテスを引き継ぐ演示的レトリックの伝統から展開された、騙し絵を想定する視覚芸術の理解を核心に据えていた事を確認した。 ユニウスが評価する魂を揺さぶる絵画は、動きと情動を捉えている点が『古代の絵画』で論じられている。画家がこの動きを抽出するのに古典レトリックに関する知識が必要であり、とりわけレトリック論で重要な発想と配列が、タブローの空間自体を生み出す事との関わりについて調査を進めた。 目前で起きているかのごとく活発な動きが絵画で生じるのは、視覚をすり抜けるモノが無意識に産出され、動きを捉える眼がレトリカルに騙されることで可能になるが、ユニウスは動きを作り出す力としてレトリックを構想している事を確認した上で、情動とモノの連関を論じる思弁的実在論やオブジェクト思考存在論等の文献を参照しつつ読み進めた。こうした成果の一端は、日本コミュニケーション学会傘下のコミュニケーション理論研究会が開催する研究会、及び同学会の年次大会の「モノとコミュニケーション」パネルで報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2021年度も、コロナ禍で海外出張が不可能となり、予定していた資料収集と現地調査を年度内に行うことを延期した。そのため、資料を読み進めることはできたが、現地調査ができておらず、昨年度からの大幅な進捗は見られない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に研究が進められるかどうかは、昨年度に引き続き、コロナの状況次第となっている。日本から欧州に出張する際の出入国の制限がコロナ次第となっており、状況次第では入国ができなかったり、入国できたとしても、調査の時間が大幅に削られることになってしまう可能性がある。 現地調査ができない場合には、オンラインでアクセス可能な文献やイメージのみの調査という制限の中で入手可能なものを手がかりに進めていくことになるが、その場合にはこれまでの2年間の経験上、1年間で予定通りの成果をあげることは難しい。 当初本年度に調査を進める予定であった室内画の知の側面や新たな技術的表象、認識論的表象や存在論的表象についての検討は、可能な範囲で続けていく。欧州に出向くことができない可能性を想定し、その場合には国内でできる事として、絵画論とレトリック論の2つの領域で文献を読み進めて行く予定である。絵画論としてはユニウスの『古代の絵画』を展開させたサミュエル・ファン・ホーホストラーテンの『絵画芸術の高等画派入門』と、ユニウスの義理の兄弟であり、ラテン語学校でのレトリック論の教科書として著書が採用されていたジュラーデス・ヴォシアスが著した絵画芸術論を、他方レトリック論では引き続きヴォシアスのレトリック論を中心に読み進めていく予定である。演劇や詩の朗読会等の競技会で市民に娯楽のスペクタクルを披露した当時のレトリック協会や、フランスハルスが描いたその表象についての調査も順次進めていく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で海外出張が不可能となり、予定していた資料収集と現地調査を延期した為、調査費を年度内に執行することができなかった。プロジェクトを遂行するのに現地調査が必要であるが、2年間出張ができずにいる。予算を翌年度に持ち越して、コロナの状況が落ち着いた所で、現地調査に赴くこととした。 本年度に現地調査に行くことができるか否かは、コロナの状況次第である。コロナの状況が落ち着いたならば、現地調査に赴きたい。難しいようであれば、引き続き文献読解を中心に進めていく予定である。
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