2022 Fiscal Year Research-status Report
投影と視覚レトリック――17世紀オランダの騙し絵と遠近法にみる視覚の生成
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19K00138
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
柿田 秀樹 獨協大学, 外国語学部, 教授 (10306483)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Franciscus Junius / 『古代の絵画についての三冊』(1638) / 発想 / 配列 / 演示的レトリック / 情動 / モノ / オブジェクト指向存在論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度も現地調査に行けず、文献を2つの領域で読み進めた。第一に17世紀オランダの芸術論、第二にその芸術論で重要な情動の力を発揮するモノについての文献である。 第一の領域では、フランシスカス・ユニウス(Franciscus Junius)の『古代の絵画についての三冊(The painting of the ancients in three bookes)』(1638)(以下『古代の絵画』)を中心に読み進めた。ギリシア・ローマの古典から芸術論を展開した『古代の絵画』では、絵画に組み込まれる表象の構図やフレームを定める発想や配列にモノを組み込み、そこに表出する魂を揺さ振る動きとしての情動が論じられる。絵画にモノの力を描き込むことが演示的レトリックの実践として重要であることを確認した。とりわけ、発想や配列の重要性は、ギリシア・ローマのレトリック理論に由来しており、イソクラテスが重視した発想や配列が17世紀オランダの芸術論に継承されていることが確認できる。レトリカルな発想と配置がタブローの空間自体を生み出し、そこからこぼれ落ちる表象不可能なモノが逆説的に情動を発揮させる重要な役割を担う事について調査を進めた。 第二の領域はオブジェクト指向存在論である。実在をモノとする芸術論はグレアム・ハーマンにおいて、モノという実在の力を思弁するのがレトリックであるという捉え方にも如実に現れている。情動とモノの連関を検討する為にハーマンの文献を読み進めた。更に17世紀オランダの芸術論を背景として、表象不可能な実在としてのモノが描き込まれた絵画を分析し、17世紀の芸術論が捉えたモノの魅惑をレトリカルな力として抽出した。描き込まれたモノを実在として見ることで、モノがコミュニケートするとはいかなることか提示できた。 これらの成果の一端は日本コミュニケーション学会のジャーナルに論文として出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2021年度も予定していた資料収集と現地調査は、COVID感染状況を考慮して断念した。コロナ禍での海外出張が基礎疾患もあり困難な状況なので、文献資料は読み進めているが、現地調査ができておらず、昨年度からの大幅な進捗は見られない。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に研究が進められるかどうかは、昨年度に引き続いて、COVIDの状況次第となっている。日本から欧州に出張する際、基礎疾患があるため、万が一の時に現地で入院できることを確認する必要があり、慎重にならざるを得ない状況にある。 現地調査ができない場合には、オンラインでアクセス可能な文献や絵画イメージの調査を進めていく。2023年度前半は現在進めているユニウスの『古代の絵画』についての検討を続行し、後半以降はできれば室内画の知の側面や具体的に新たな技術的表象、認識論的表象や存在論的表象について検討を開始したい。同時に、ユニウスの義理の兄で、当時のオランダのラテン語学校で最も採用されていたレトリック論の教科書を著したジュラーデス・ヴォシアスが執筆した絵画芸術論と、その教科書の内容についての調査は2023年度の終わりに予定している。必要に応じて、当時のレトリック協会の表象について調査も適宜進めていく。状況的な制限の中で入手可能なものを手がかりに調査を進めていく場合には、これまでの2年間の経験上、予定通りの成果をあげることはなかなか難しいかもしれない。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で海外出張ができず、予定していた資料収集と現地調査を延期した為、調査費を年度内に執行することができなかった。プロジェクトを遂行するのに現地調査が必要なのだが、3年間出張ができない状況である。予算を翌年度に持ち越して、COVIDの状況が落ち着き、安全を確保されるようになってから、現地調査に赴くこととした。 本年度に現地調査に行くことができるか否かは、コロナの状況次第である。コロナの状況が落ち着き、万が一の際に現地で入院できることが確認されたならば、現地調査に赴きたい。難しいようであれば、引き続き文献読解を中心に進めていく予定である。
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Research Products
(2 results)