2019 Fiscal Year Research-status Report
日本における70ミリ劇映画文化の受容とそのイメージの復元
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19K00146
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Research Institution | The National Museum of Modern Art, Tokyo |
Principal Investigator |
冨田 美香 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, 企画課, 主任研究員 (30330004)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フィルムアーカイブ / 映画史 / 70ミリ映画 / 大型映画 / 日本映画 / 映画学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本における70ミリ劇映画の永続的な保存と再現を可能とすべく、以下3点――1)国内主要各地での70ミリ劇映画と映画文化の受容様態、2)欧米での70ミリ映画上映に関する機器及び技術の維持方法、3)三隅研次監督『釈迦』(大映、1961)、黒澤明監督『デルス・ウザーラ』(ソ連、黒澤プロ、1975)の最適な復元方法――を明らかにし、70ミリ上映の安定化と日本の映画史上重要な70ミリ作品の媒体固有の芸術表現の再現を取り戻すことにある。 具体的に本年度は、上記1)については、京都と大阪の1950年代から1970年代の70ミリ劇映画と映画文化の受容様態調査を、2)については、L.A.、チェコ、ドイツ、オスロ等での70ミリ映画祭での調査を、3)については、権利会社、国内外の現像所、サウンド復元ラボと復元方法を検討する体制作りをメールや打ち合わせ等で行う、という計画をたてた。 このうち、1)については京都新聞、大阪朝日新聞等の地方紙調査をおおむね終え、東京とは異なる『釈迦』の記事を多数収集することができた。2)については、オスロの70ミリ映画祭と、大型映画の原点である35mmフィルム3本映写でのシネラマ上映をハリウッドのシネラマドームに視察し、いずれも映写室・映写機器等の見学・ヒアリングを行い、70ミリ専門家との情報交換も行うことができた。3)は、『釈迦』に焦点を絞り、デジタル復元、フォトケミカルプロセスでの復元、の双方について国内外の関係機関と打ち合わせを行った後、復元の元素材となるフィルムの調査に注力した。研究協力者のエイドリアン・ウッド氏の協力を得て、国内外に現存するプリントのリストアップと精査、一部のプリント検査を行うことができた。 新型コロナウイルスの世界的流行により、2月以降、予定していた調査を実施できず、海外機関からのメール回答も来なくなったことは痛手であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね順調に進展している」と自己評価した理由は、前項で記したように、研究目的の1)と2)はおおむね計画通りに進んでいること、さらに3)について、海外にある『デルス・ウザーラ』のネガおよび現存プリントの調査を進めることはできなかったが、一方で『釈迦』については、復元方法の検討に必要な、国内の主要関係者との打ち合わせに加え、国内外に現存するフィルムのリストアップと所蔵機関との連絡を、研究協力者の協力により当初計画をはるかに超える深度で海外機関まで進めることができたこと、そして次年度予定していた詳細なプリント検査にも着手することができたこと、などがあげられる。 2月からの新型コロナ感染症対策による国内外の外出自粛・自宅待機令の状況がなければ、『釈迦』の国内の現存プリント検査と、海外からのプリント検査報告の入手を通して、ほぼ現存プリントの調査を終えることができ、復元の元素材プリントを絞り込む段階に進められる予定であったことを付言しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
最大の課題は、前項で記したように、新型コロナ感染症対策のため、国内外のアーカイブが通常業務および勤務体制も従来とは異なり、すべてが遅延しており、調査の受け入れも進まないことから、国内外のプリント検査を含めた調査出張の予定を立てにくいことである。研究目的1)の資料調査は、地域の主要図書館は開館したため、出張が従来通りに可能となれば進めることは可能だが、2)と3)は、研究代表者の所属機関含め、国内外のフィルムの所蔵機関や上映機関の通常業務が常態に戻らないと、進めることが厳しい状況である。 そのため、現実的には、1)を中心に進めることが最善の推進策であるが、作品の復元に向けて必須の2)と3)については、新型コロナ感染症からの各国・地域・機関の復旧状況を確認しながら、プリント等の出張調査の可能性を探りつつ、関係機関とメール等での連絡を根気よく試みる、ということになるだろう。
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Causes of Carryover |
初年度分として、間接経費を除いて2,200千円の計画(内訳:旅費1,710千円、 人件費・謝金・その他490千円)をたてたが、実支出が844千円程になった理由は、①海外出張を予定通りヨーロッパとロサンゼルスに1回ずつ行ったが1/3ほどの金額で済んだこと、②国内調査出張を新型コロナウイルス感染症対策により予定通りに実施できなかったこと、③海外の現存プリント調査の必要性が出てきたため、次年度以降の海外調査費を確保するために、当初予定していた70ミリ用備品の購入を延期したこと、の3点があげられる。 使用計画としては、2年度目もしくは3年度目に、前述の海外含めた調査出張や、研究協力者への謝礼・委託費も必要となるため、研究費執行に問題はないと考える。
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