2020 Fiscal Year Research-status Report
Rethinking of an idea of "Chamber music" in 19th century: Focusing on the practice and discourse of the New German School
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19K00148
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
朝山 奈津子 弘前大学, 教育学部, 講師 (30535505)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 音楽史記述 / 楽派概念 / 国民様式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はタイトルを「新ドイツ派の室内楽概念」とし、音楽史記述でしばしば周縁におかれてきた室内楽が、実際には19世紀の日常的な音楽生活の中心にあったことを明らかにするものである。 本年度は、ドイツに滞在して新ドイツ派の室内楽作品や、大編成作品の室内楽編曲などを収集し、実態把握を進める予定としていたが、疫病のため延期した。そこで対象を拡大し、自宅で閲覧可能な資料を基に研究を進めた。以下、対象拡大後の研究目的と成果について記す。 これまで「新ドイツ」派の意味の射程については多くの研究者が議論を重ねてきた。他方、新ドイツ「派」の意味、すなわち、F. ブレンデルが新しい音楽を実践するグループに「派Schule」の語をあてた理由は、ほとんど注目されていない。ブレンデルによる音楽史(1852)にはこの語が頻繁に登場するので、彼は音楽史における「派」の語義を踏まえた上で、F. リストら同時代の音楽家を歴史的に位置づけることを目的にこの語を用いたと考えられる。こうした仮説のもと、音楽史における「派」概念(以下、楽派概念)について調査することにした。 まず、現在知られている最も古い音楽通史から、ブレンデルがきわめて頻繁に引用しているキーゼヴェッターの著作(1834)までを対象として「派」の語が現れるすべての文脈を調べた。併せてこの語が美術史で使用された契機を先行研究にたずねた。この調査から、音楽史に楽派概念を導入したのはCh.バーニー(1789)であること、キーゼヴェッターはこの語がナショナリズムを先鋭化させることを予見し、その使用に批判的であったことが明らかになった(以上を論文にまとめて投稿したが、現在リライト中)。また楽派概念と「様式」の関係を考えるため、G. アドラーの著作(1911、1919)で「楽派」がどのような文脈に現れるかを調査し、論文にまとめた(弘前大学紀要第125号掲載)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度はドイツに滞在し、図書館や文書館での調査研究を行う予定だったが、世界的な疫病に伴うドイツ側の入国制限や本務校での渡航禁止などにより在外研究を延期した。加えて、防疫のための授業遠隔化によって本務校での業務が激増し、上半期は研究を行う時間と体力がなくなった。そこで、下半期は予定していた研究の対象を拡大し、自宅で閲覧可能な資料を基に研究を進めることとした。 研究対象拡大後の計画においては少しずつ成果が得られているが、当初の研究計画は、1年目の状態で中断している。
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Strategy for Future Research Activity |
在外研究の計画は、最終年度となる今年度も延期となる公算が大きい。日本のワクチン接種の機会がどのように得られるのか見込みが立たず、ドイツ側の渡航制限が緩和されても、帰国時の自己検疫による本務への影響が懸念されるからである。 そこで、もしも可能であれば在外研究を年度末に行うため、予備的調査を進め、予算を残しながら、同時にインターネット上の史料のみによって遂行可能な研究として、対象を「新ドイツ派の楽派概念」に拡大し、2020年度の作業を継続して着実な成果を上げられるよう努める。 対象拡大後の計画において、2021年度は、キーゼヴェッターからブレンデルまでの楽派概念、特に音楽史の専門書のみならず音楽専門誌における用法と、ブレンデル自身の著作における楽派概念、さらに19世紀後半からアドラーに至るまでの音楽史記述における楽派概念を調査し、この語がバーニーからアドラーまでにどのような変遷を辿ったのかを考察する。本調査から、19世紀後半から20世紀にかけての音楽史記述におけるナショナリズムの先鋭化に、楽派概念が重要な役割を果たしたことが明らかになると期待される。
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Causes of Carryover |
2020年度は、ドイツにおける4週間の調査と、国内での学会参加のための出張を予定していたが、調査は延期、出張は中止となったため、旅費が発生しなかった。また、上半期は授業遠隔化の対応で研究時間がまったく取れなかったため、物品費(主として図書費)も予定の半分程度の執行に留まった。 2021年度は、年度末に在外研究を行う可能性を残しつつ、あるいは次年度以降に渡航できることが確実であれば研究期間の延期を視野に入れ、在外研究の費用を確保しながら、研究対象を拡大して研究を進める。
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Research Products
(1 results)