2019 Fiscal Year Research-status Report
「あいだ」と「つながり」―東南アジア島嶼部の伝統音楽・舞踊における一体感の生成
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19K00151
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
城島 亜子 (増野亜子) 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (50747160)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 影絵人形芝居 / 相互作用 / 音楽 / バリ島 / 即興 / インドネシア / 伝統芸能 / 社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度はインドネシア・バリ島の伝統的な影絵人形芝居ワヤン・クリットにおける、演者間の相互作用的ネットワークの形成についての調査と演者の招聘事業を行った。具体的には人形遣い(1名)、人形遣い助手(2名)、演奏者(4~12名)が上演において、どのように即興的にお互いの行動を引き出し、また対応しあうのか、を研究分析した。 2019年8月にはバリ島で3週間の現地調査を実施した。調査では影絵芝居演者への聞き取り、上演の観察に加え、実際に演奏に参加して上演リハーサルを行い、直接指導を受けることで実践的な理解の手がかりを得た。12月には影絵遣いと音楽家をバリから招聘し、日本人の演奏者とともに影絵芝居の公開記録実演とワークショップを行った(東京:東京藝術大学、及び都内民間スタジオの計3回)。招聘プロジェクトでは8月の調査資料と知見をもとに、それらの音楽を人形の動き、声その他の人形遣いからの合図とどのように合わせるべきか、また合奏の中で各楽器パートがお互いをどのように調整して合わせていくのかに関して、より具体的・体験的かつ詳細な知見を得た。またリハーサルを含めてその調整と交渉の過程を、後日の分析のためにビデオ記録し、実演によってここまでの研究成果を一般公開した。 この招聘プロジェクトで得られた上演記録ビデオを元にタイムラインを作成し、人形の動き、声(ことば)、上演中の共同作業・相互作用の整理・分析に取り組んだ。2020年3月に再び現地調査を行い、演者とともにビデオから上演の細部を振り返り、そこで起きた(及び起きるべきだった)相互作用について聞き取り調査を行った。また、2019年7月の国際伝統音楽学会バンコク大会、12月の日本音楽学会東日本支部例会において影絵芝居の伴奏音楽に関する研究発表を行い、他の研究者との意見・情報交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初2020年度に企画していた影絵人形芝居に関する現地調査と日本への招聘事業を、現地調査協力者の都合により2019年度に繰り上げ実施することになり、計画に変更が生じた。また日本での記録上演は当初、1演目1回上演を予定していたが、最終的に2演目3回の上演を実施した。実施時期の変更及び実施内容の増加によって準備の作業が増え、結果的に研究に若干の遅延をもたらしたが、一方で招聘事業自体は成功し、予想以上に広汎な知見が得られた。よって総合的に見れば単純な計画の遅延というより、研究の深化と調査資料の増大と考えることができる。 一方、より深刻な問題は2020年3月の現地(インドネシア)調査の中断である。当初3週間の調査期間で、2019年8月の現地調査と上記招聘事業のフォローアップを行い、ビデオ資料を現地の演者とともに振り返り分析・議論する予定であったが、コロナウィルスの急激な蔓延により、調査期間を短縮し帰国することを余儀なくされ、聞き取りによる分析作業を中断せざるを得なかった。この聞き取り成果そのものをさらに資料として分析を重ねる計画が中座している。またこの3月の調査は、2020年度以降の調査課題のための情報収集・予備調査を兼ねる予定であったが、情報の一部が未入手で、コロナ禍の影響で現地の状況も不安定になっていることから、今後も調査予定の変更を強いられる可能性が高い。以上の理由から、現時点では当初の計画・目標よりもやや遅れていると言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では演者間の一体感の生成過程を(a)ユニゾン型、(b)役割分担型、(c)憑依型に分類する仮説に基づいているが、今年度の第一の目標は、2019年度の調査研究に引き続き、(b)の事例としてのバリの影絵芝居に関する資料を考察を進めることである。2019年度に実施した影絵芝居招聘事業で得られた資料を分析し、特に人形遣いと演奏家両方の視点による、実際に上演の中で生じた相互作用の解釈を明らかにすることで、役割分担による双方向的なコミュニケーションの詳細を明らかにしたい。演者でのききとりはコロナ禍によって中断したため資料がそろっていないが、状況が改善され次第、現地調査を実施し分析対象とする。 またすでに得られた情報や記録の分析を進める。また(a)のタイプの芸能に関しても現地調査と考察を進めるため、2021年3月にロンボク島で、ユニゾン型の群舞ルダットに関する現地調査を行い、(b)タイプの影絵芝居との比較考察を行う予定である。 並行してウェブ調査及び文献調査による研究動向の把握につとめ、方法論や仮説そのものの検証作業を行う。特に当研究の対象であるインドネシア以外の事例、民族音楽学、舞踊学、文化人類学、コミュニケーション研究等における「一体感」や「共感」に関する方法論を広く視野に入れたい。 また本年度は論文集への寄稿と、国際伝統音楽学会(ICTM)東南アジア芸能スタディ・グループの国際シンポジウムでの研究発表を予定している他、これまでの調査に基づく中間報告として紀要等への投稿や国内学会での発表などに取り組みたい。
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Causes of Carryover |
当初2020年度に予定していたインドネシアからの芸能演者招聘事業を、招聘者(演者)の事情により2019年度に前倒し実施し、これに伴い招聘の準備を含む研究計画全体を変更した。このため、当初2020年度予算として計上していた招聘者旅費、招聘上演の経費等を今年度支出することになった。
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