2021 Fiscal Year Research-status Report
明治前期の日本の信号ラッパ―英仏の影響と西南戦争における運用の実態について―
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19K00158
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Research Institution | Shizuoka University of Art and Culture |
Principal Investigator |
奥中 康人 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 教授 (10448722)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラッパ / 西洋音楽受容 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本陸軍(海軍)によって『陸海軍喇叭譜』が、1885年12月に制定される以前、つまり明治18年まで、日本陸軍がどのようなラッパ譜を用いたのかについては、「フランスのラッパ譜を用いた」という漠然としたことが知られていただけで、それ以上の詳細については、ほとんどわかっていなかった。そこで、かつて検証した3点のラッパ譜(靖国神社偕行文庫所蔵の2点と、名古屋鎮台の1点)と、新たに閲覧の機会を得た2点のラッパ譜(宮代町郷土資料館蔵の1点と、個人蔵の1点)を総合的に分析することが可能となった。 宮代町郷土館の1点のラッパ譜は明治9年ころに筆写された楽譜で、西南戦争以前に用いられた(筆写した人物はラッパ手で、西南戦争にも従軍した)と考えられる貴重な資料である。また、個人蔵の1点は、明治15年に歩兵第三連隊のラッパ手によって写されたもので(タイトルは『歩兵喇叭譜簿』)、いくつかの行進曲にタイトルが明記されているため、個々のラッパ譜のタイトルの無い曲の解明に大きく寄与した。 合計5点のラッパ譜を分析すると、基本的にはフランスのラッパのレパートリーをほぼそのまま継承していたが、その曲数は極めて多い。もちろん、楽譜掲載曲が、そのまま演奏実態を示すわけではないが、多くの曲が複数のラッパ譜に共有されていたことは、少なくともレパートリーとして共有されていたと考えてよい。また、これまで不明であった長大な行進曲(マルス)が、「旧マルス」「中マルス」「新マルス」「野営マルス」「新野営マルス」「楽マルス」と認識されていたことが判明した。とりわけ「楽マルス」は二重奏、三重奏の楽曲であることは、明治初期の洋楽受容史の観点からも重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
楽譜の分析は飛躍的に進んだが、当初予定していた、英国のラッパ譜調査ができなかったことにくわえ、熊本をはじめとする九州各地の資料収集が進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
この数年間の個々のラッパに関する研究をまとめる作業に従事する。トピックとしては、ラッパという楽器にかかわる問題、ラッパ譜という楽譜や個々の楽曲についての問題、ラッパを吹奏したラッパ手やその教師の問題という、3点に着目する。 また、幕末のラッパからの連続性や、日清日露戦争以降のラッパとの関連についても視野を広げることを検討している。
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Causes of Carryover |
新型コロナにより、当初計画していた英国調査旅行、および九州各地における資料調査が不可能になったため。
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Research Products
(1 results)