2019 Fiscal Year Research-status Report
「アヴァンギャルド・ミュゼオロジー」の歴史とその現代性の考察
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19K00159
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
江村 公 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特任講師 (50534062)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ロシア・アヴァンギャルド / 近代芸術 / ミュゼオロジー / 芸術論 / 現代アート |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題遂行における初年度は、ソ連成立以後1927年に日本で初めて開催された、大規模なロシア同時代美術の展覧会「新ロシア美術展」に関する調査を行ない、その資料の検討を中心に研究を進めてきた。 研究計画の当初の予定には入っていなかったものの、6月に東京大学で開催された国際学会"The 10th East Asian Conference on Slavic Eurasian Studies 2019"にて、"The Significance of 'the New Russian Art Exhibition' in 1927"と題し、英語による口頭発表を行った。本発表では、前述の「新ロシア展」について、キュレーターとしてこの展覧会にあわせて来日した芸術史家ニコライ・プーニンの視点から再検討した。この展覧会についてはプーニンの日記に断片的な記述が残されており、本発表は先行研究では言及されていなかったこの文献に着目し、プーニンが日本の文化と芸術にどのような関心を抱いていたのかを明らかにした点で、日露文化交流の文脈でも意義があった。 9月には、サンクト・ペテルブルクで国立図書館とロシア美術館図書室を中心に資料収集を行った。この調査からロシア美術館における当該研究に関連する過去の企画展の内容が把握できたこと、プーニンの回想の翻訳に取り組む中で日本に所蔵のない文献を用いて引用箇所に関する調査ができたことは重要な成果である。 年度末の2月には、モスクワのトレチャコフ美術館で開催された企画展「アヴァンギャルド・リスト第1号、絵画文化館設立100年によせて」を視察した。その展示とカタログは、モスクワで設立された当時でも類を見ない最新芸術専門の国立ギャラリーがどのようなものであったかを歴史的に明らかにしており、アヴァンギャルドの文化制度を検討する上で、本研究において大きな示唆があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在、1927年に日本で開催された「新ロシア展」に関する調査を中心に進めているが、コロナ・ウィルスをめぐる国内外の状況の変化により、昨年度末に予定していた文献調査が進んでいないこと、勤務先の大学統合関連の仕事により当初の想定よりエフォートが下がったことから、その遂行についてはやや遅れていると言わざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題遂行における2年目にあたる今年度は、1920年代ソ連での前衛芸術コレクションの収集方針と美術館での教育活動の背景について取り組むことになっている。ただ、今年度においても海外での文献調査が予定通り行えるかどうかは現時点で楽観視できない状況のため、研究初年度に収集した資料の分析を主に進め、それを踏まえた研究成果を国内で発表することを目指す。 研究計画に沿って、今年度前半は夏季に開催されるカナダでの国際学会への準備に当てる予定で、すでにエントリーも終了していたが、学会そのものが一年後に延期されることになった。この学会では1927年の「新ロシア展」に関する日露両国の文化的影響について報告する予定であったが、この調査・研究については、国内にある文献資料の調査を軸足を置きつつ、引き続き今年度も進めていく。 また、 1920年代ロシアでの文化行政や芸術家たちの交流に関する重要な文献である、芸術史家ニコライ・プーニンの回想の翻訳を前倒しして進める。この翻訳作業を通して、プーニンが関わった1920年代における文化制度、とりわけ芸術文化館、国立芸術文化研究所でのアーティストたちと学芸員との協働について、ロシア美術館での前衛芸術のキュレーションをめぐる背景などが明らかになるはずである。 この作業の進展とともに、研究初年度年度末の出張で収集したトレチャコフ美術館での展覧会資料を踏まえて、モスクワとサンクト・ペテルブルク両年の美術館運営をめぐる状況の比較を通して、ソ連初期の前衛芸術に特化したギャラリーの全貌の一端を明らかにし、論文にまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度夏季のサンクト・ペテルブルクでの調査は、勤務先である大阪市立大学と国立サンクト・ペテルブルク大学との学術交流派遣の協定を利用した出張だったため、科研費を請求することは制度的にできなかった。また、海外渡航や国内出張自粛により、学期末における研究調査が予定ほど遂行できていない。こうした理由から、出張費が結果的に余ることになった。繰越分は来年度出張費と研究室に設置する機材(スキャナー等)の費用にあてる。
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