2020 Fiscal Year Research-status Report
「アヴァンギャルド・ミュゼオロジー」の歴史とその現代性の考察
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19K00159
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
江村 公 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特任講師 (50534062)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ロシア・アヴァンギャルド / 近代芸術 / ミュゼオロジー / 芸術論 / 現代アート |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は本研究課題において重要な美術史家であるニコライ・プーニンの著作『最新芸術擁護のための闘争(革命と芸術)』の翻訳作業とそれに関連する研究、および美術分野における日露文化交流に関する考察を行った。 前掲の著作は2018年にモスクワで出版された十月革命と芸術運動をめぐる回想である。プーニンはこの回想録の出版を生前から構想していたものの、政治的な圧力により具体化することはなかった。その後、彼はこの回想の刊行を封印することを意図したが、孫娘ら遺族による編集を経て、2018年に未発表原稿を含め当初の出版計画を復元する形で公刊された。この回想の翻訳は、当時の現代アートであったアヴァンギャルド芸術が研究機関や美術館という組織を通して、ロシア美術の伝統にどのように位置付けられたのかという観点から、本研究の核をなすもののひとつであり、遺族が復元したかたちでの翻訳出版の実現に向けて、現在版権取得を目指している。 他方で、1927年に日本で開催された「新ロシヤ展」に注目し、日露の美術分野における文化接触の意義について検討した。ロシア未来派の代表的芸術家であったブルリューク、また日本にロシア構成主義を伝えることになったブブノワ、そして1927年「新ロシア美術展」のキュレーターを担当したプーニン、この3人の活動を軸に芸術表現における両国の影響関係を捉え直している。日本近代美術に関する先行研究での成果を、ロシア側の視点から再考することを目指し、前衛芸術から社会主義リアリズムへの様式変化の背景について資料の読み直しを行なった。昨年度は、ロシア構成主義の日本における受容とプーニンと接触のあった芸術家を中心に調査を進めたが、その成果は2021年度の国際学会での発表に反映させる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年度と同様、新型コロナウィルスの影響で当初予定していた文献調査のための出張ができなかったこと、大学統合関連事務に当初の予想以上に時間を取られたこと、慢性疾患の悪化により必要不可欠な学務以外は極力治療に専念せざるをえなかったため、当初の研究計画からは遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年も昨年同様、新型コロナウィルスの感染状況により、引き続き移動が制限された中で研究を進めざるをえないことが予想される。そのため、可能なかぎり国内での調査と初年度から収集してきた文献を整理しまとめる作業を中心とする。 昨年度開催予定だったものの、延期されていたICCEES(International Council for Central and East European Studies)主催の国際学会がオンラインで8月に開催されることが決まったため、すでにエントリー手続きを済ませている。今年度前半はこの研究発表への準備に集中する予定である。具体的には1927年前後の時代の日本近代美術がソ連の文化イデオロギーの影響を受け、どのように変化したのか、プーニンと関わりが深かった矢部友衛など、グループ「造形」に参加した芸術家を軸に様式変化を含め検討する。 夏以降はプーニンの回想の翻訳を年内にほぼ終えられるよう作業を進める。この翻訳を通して、モスクワを中心に語られがちだったロシア・アヴァンギャルドの多様性がロシア象徴主義との断絶、同時代の文学との関わり、西ヨーロッパの美術理論の受容、プリミティヴィスム以来の周縁的な文化への関心といった複数的な観点から再考できるようになるはずである。翻訳を進めながら、こうした視座を元に、1920年代のロシア・アヴァンギャルドの文化制度を再考し論文として発表することを目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナ・ウィルスによるパンデミックのため、当初予定していた文献調査を目的とする出張がまったくできなかった。自身も持病の悪化により、長時間の仕事の遂行が難しく、事実上ほぼ研究が休止状態になっていたため、想定どおり予算が消化できなかった。今後こうしたことが続くようであれば、研究中断の手続きをとることも検討するが、今年度は研究を続行し、繰り越した予算は書籍の購入や、資料整理のためのスキャナーの導入など研究遂行のための機材の整備にあてる予定である。
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