2021 Fiscal Year Research-status Report
「アヴァンギャルド・ミュゼオロジー」の歴史とその現代性の考察
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19K00159
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
江村 公 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特任准教授 (50534062)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ロシア・アヴァンギャルド / 近代芸術 / ミュゼオロジー / 芸術論 / 現代アート |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は1927年の「新ロシア展」開催前後のロシアと日本の美術分野における文化交流に関して、主に国内での文献調査を踏まえ検討を行ない、その成果を発表した。 まず、2021年8月にモントリオールで開催された第10回ICCEES(International Council for Central and East European Studies)の視覚芸術分野のパネルで、1920年代ロシア美術の日本への影響に関する発表を行った(オンラインでの参加)。本発表では日露両国の文化接触の歴史的枠組みを参照しつつ、ロシア構成主義の様式的受容に着目し、当時最も急進的だった芸術グループのひとつである「三科」の創作と活動について論じた。とりわけ、第二回「三科」展での立体作品の成立とその独自性の再考は、モダニズム芸術の国際的な展開のさらなる理解に寄与しうる。 くわえて、英語による上記発表の内容を加筆・修正し、大阪市立大文学研究科紀要に研究ノートとして投稿、掲載受理された。本稿では「三科」の分裂から「造型」結成の経緯をより明確にするために、「新ロシア展」実現に奔走した批評家や芸術家たちの言説を踏まえ、大正新興美術の最も先鋭的な創作者たちが社会主義リアリズムに共感していくその変化の背景を明らかにした。なお、当時モスクワを訪問した画家矢部友衛の回想を断片的ながらも取り上げることができたことは意義があった。この回想を手がかりに、「社会主義リアリズム」の本格的な受容の前に、矢部ら「造型」グループの芸術家にとってなぜ「セザニズム」が重要だったのか、裏付けることができる可能性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウイルスのため海外出張による文献調査が当初の計画通りに進んでいないこと、大学統合による新大学開学準備が前年から続いており、想定よりもエフォートが下がってしまったため。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は引き続きコロナ感染状況に関わる海外渡航自粛、さらにはロシアによるウクライナへの侵攻によって文献調査の範囲が制限される中での研究活動遂行が予想される。そうした状況を考慮しながら、日本国内で閲覧可能な資料を中心に研究を進めていく。 まず、1910年代後半から1920年代にかけてのロシアおよびソ連初期の展覧会や文化的組織での普及活動について、今まで収集した資料を中心に成果をまとめる予定である。アヴァンギャルド芸術運動において、新しい美術館の構想は1910年代、つまり十月革命前から提起されていた。ロシア未来主義の時代に議論されていた自律的組織化と、ソ連による国家的文化行政の確立の過程について、ロシア語による先行研究の検討を軸に考察を試みる。そして、モダニズムの潮流の中での、ロシア独自の先進的な現代美術館設立の歴史的背景の解明とその理論的考察に着手し、口頭発表と論文執筆により成果を公表する。
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Causes of Carryover |
研究開始当初予定していた海外での文献調査が予定通り実施できていないため、出張費が消化できていない。繰越予算は研究室の研究環境改善のために使用する予定で、遠隔会議参加に適したスペックのPCやプリンターの購入、書棚の購入にあてる。
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