2022 Fiscal Year Research-status Report
「アヴァンギャルド・ミュゼオロジー」の歴史とその現代性の考察
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19K00159
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
江村 公 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 特任准教授 (50534062)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ロシア・アヴァンギャルド / 近代芸術 / ミュゼオロジー / 芸術論 / 現代アート |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度から引き続き1927年日本で開催された「新ロシア展」に関わる事象について、日本国内にある資料を中心に調査を進めた。具体的には2019年度に行った国際学会での英語による口頭発表を基礎にした追加調査とその結果をまとめる作業を行なった。 この展覧会に関しては先行研究により、歴史的事実に限ればかなり詳細に調査がすでに発表されている。ただ、キュレーターに任命され、来日した美術史家ニコライ・プーニンについてはあまり触れられていなかったため、彼の残した手紙・回想を手がかりに、この展覧会の背景を明らかにすることを試みた。 従来から言われてきたように、この展覧会は当時の左派の若い芸術家だけでなく、後藤新平らが関わっていた「日露協会」も共催に加わっており、政治的な意図があったことは明白である。今年度の研究ではプーニンの足跡を辿ることで、ロシア側の政治的な状況を示唆し、日本文化への評価について、当時の典型的なインテリゲンツィアの一つの見解のケース・スタディとして示した。なお、この調査内容は研究ノートとしてすでに英文にまとめてwebジャーナルに投稿した。 プーニンの手紙によれば、当時のソ連での前衛芸術の意義というのは危うくなっており、手紙の内容への検閲も示唆されているのに対し、日本の若い芸術家たちはそうした状況をほとんど理解していなかったことがわかる。このことから、当時の日本の前衛芸術家による「秩序への回帰」としてのリアリズム様式の関心は、国家としてのソ連の文化戦略の成果として見なせることができるだろう。その一方で、こうしたリアリズムへの関心は当時世界的に見られた現象ともいえるが、日本におけるファシズムによる社会状況の変化と合わせて考えたときに、日本のリアリズム受容の独自性が明らかになるはずである。その再検討については今年度の研究につなげたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大学統合の手続きが終了し、新大学が開校したものの、担当していたロシア語関連の運営業務がまだ安定しておらず、雑務に追われていたため。また、体調もまだ万全でなく、当初の予定通り研究が進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の研究期間において、感染症の拡大だけでなく、戦争の勃発・継続という想定外の事態があり、研究の方向性そのものについて試行錯誤しながら、引き続き調査を進めざるをえない。その上で、以下の二つの事項に注目しながら、本研究における最終年度の調査を進める。 第一に、1927年の「新ロシア展」をきっかけに、前衛芸術家の多くがリアリズムの様式に転向するのだが、そのリアリズムの理解がどのように形成されたのかという点について、日露の文化交流の視点から検討する。くわえて、当時の前衛的な様式であったコラージュやインスタレーションといった様式の日本における受容についても検討したい。第二には、ロシアにおけるモダニズムの美術館に関する考察である。今年度の研究で、ロシア未来派のメンバーたちは1910年代から同時代アートによる常設の美術館の設立を目指していたことがわかった。それを踏まえ、モダニズムの時代における現代アートの展示と理解の意義についてまとめ、学会発表を行なう。 年度末までには、こうした調査を踏まえ、モダニズムにおける現代アート展覧会開催の意義と、それを通じた文化交流に関する書籍執筆のためのまとめ作業に取り掛かりたい。
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Causes of Carryover |
戦争の継続のため、ロシアでの調査が当初の計画通りできていない。また、前年度は感染症の影響もまだ残っており、その他の地域への渡航も控えていたことから、当初の予定よりも出張予算が使用できていない。今年度は研究最終年度になることもあり、海外渡航による資料調査に予算をあてたい。
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