2019 Fiscal Year Research-status Report
英語圏における日本アニメ作品研究とその批評的主題の再考察
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19K00161
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
吉本 光宏 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80596833)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アニメ |
Outline of Annual Research Achievements |
英語圏における学術的アニメ作品批評を包括的に調査し、その可能性と限界を見極めた上で、独自の具体的なアニメ作品の分析から成る英語で書かれた研究書を執筆し、新たなアニメ作品批評の可能性を国内外の研究者に問うことが、本研究の目的である。2019年度は英語圏のアニメ研究において特別な意味を持つ『AKIRA』を中心に、広く関連文献の調査・収集・精読を進めながら、同時に批評的問題群の整理と、詳細な作品分析を行った。また英語圏のアニメ研究の傾向や大きな物語をより明確化するためには、『AKIRA』と関連付けて他にどのようなアニメ作品をいかなる観点から論じることが必要かについても、かなりの程度有効な見取り図を作成することができた。本研究に直接関係するイベントとして、2019年11月16日と17日の二日間、早稲田大学において国際シンポジウム「アニメを理論化する:批評概念の創造とその可能性の条件」を開催した。コンコーディア大学(カナダ)のマーク・スタインバーグ教授やコンコーディア大学(アメリカ)のマーク・ウルフ教授による基調講演に加えて、ふたつの企画パネルでの招聘研究者による講演、さらに日本や中国、韓国、アメリカ、メキシコ、イギリス、スペイン、ロシア、フィンランドその他の国のアニメ研究者や大学院生による10のパネルでの研究発表から成るシンポジウムでは、アニメ研究の制度や方法論についてメタ批評的な視点から活発な議論を交わすことができた。さらにトランスメディア・アダプテーションの観点から『この世界の片隅に』を論じた査読論文をSeries: International Journal of TV Serial Narrativesに出版した[vol. 5, no. 2 (Winter 2019), pp. 11-24]。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の研究によって、執筆を予定している英文研究書の理論的枠組みや批評的切り口は、ほぼ固まりつつある。すでに査読審査のある専門誌に掲載された論文(“In This Corner of the World and the Challenges of Intermedial Adaptation”)に加えて、別の複数の関連した英語論文や研究書を出版する企画が現在進行中であり、ある意味で研究はかなり順調に進んでいると言える。また、元々は最終年度すなわち2021年度に計画をしていた、国内外の研究者が広く参加する国際シンポジウムを、本務校のサポートもあり2019年度に開催できたことは非常に幸運であった。シンポジウムを行うことによって、初期の予定よりも早い段階で多くの専門家から新しい知識を学んだりフィードバックを受けたりすることができたのは、残り二年ある本研究の方向性に大きな影響を与える貴重な経験であった。複数のシンポジウム参加者と共同研究やプロジェクトについての話し合いが行われ、2020年度から国内で定期的な研究会を始めることになった一方、海外ではベルギーで今回のシンポジウムをさらに発展させた学術イベントを2020年度に開催することも決定した。しかし残念ながら、2020年3月から急激に拡大した新型コロナウィルス感染症のために、今これらの計画すべてが白紙状態である。本研究の部分的成果を国内外の学会やシンポジウムで発表し、そこで得られたフィードバックを参考にして、さらに研究の精度を高めていくというのが当初の計画であったが、感染症の状況がどう変化するのかがまったく予測不可能な現時点で、それを今後どう現実化していくのかは正直わからないとしか言えない。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は本研究にとって厳しい年になると覚悟している。秋にベルギーで行う予定であった公開シンポジウムと研究セミナー、香港での講演や研究者との交流など、海外での研究活動はすべて新型コロナウィルス感染症のためにキャンセルないし延期されている。また国内での活動も現時点では厳しく制限されており、いつ研究会などを行うことができるのかわからない状況である。web会議システムなどを活用して遠隔で共同セミナーなどを行うという選択肢も当然考えられるが、共同作業が生み出す新しい発見へ繋がるツールとしてはやはり限界があると言わざるを得ない。したがって2020年度は、主に次に挙げる作業に取り組みたい。(1)英語圏のアニメ研究に応答するかたちで、アニメ批評の新たな理論的枠組みの可能性をさらに明確化し、執筆予定の英文著書の一部になる論文を執筆する。その具体的なトピックは、アニメと歴史(アニメ史、アニメとしての歴史、歴史の中のアニメ、など)をめぐる論考になるだろう。(2)英語圏のある大学出版局と現在交渉中の、アニメ批評に関する論文集出版のプロジェクトをさらに進展させる。また論集の序論を共同編集者と執筆する。(3)海外渡航が可能になった時点でいつでも開催できるように、ベルギーでのシンポジウムおよびセミナーの準備を粛々と進めていく。テーマや具体的なトピックはすでに固まっているが、共同研究者や研究協力者との連絡を密に保ち、また最終的には成果を出版することも考え、計画をさらに練り上げていく。本年度の研究推進方針をまとめると、外部の状況に最も影響を受けない(1)を中心に研究を進めながら、(2)を同時に進行させる。(3)は感染状況を見ながら、万が一2020年度中の開催が困難になったときに備えて、別のかたちでも実現できるように、代替案も考えていく。
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Causes of Carryover |
国際研究集会「アニメを理論化する:批評概念の創造とその可能性の条件」を企画・開催するに際して、本務校から国際シンポジウム開催助成金を受けることができたため、その費用のほぼすべてを賄うことができたこと、さらに科研費を使用して招聘する予定であった海外の研究者が本国での政情不安のため来日することができなくなり、交通費や滞在費などの予算が未使用に終わったことにより、次年度使用額が生じることになった。翌年度分として請求した助成金と合わせた研究費は、研究資料購入のため、さらに新型コロナウィルス感染症の世界的状況にもよるが、ヨーロッパで開催する予定の国際シンポジウムにかかる費用、あるいはその代替案としてシンポジウムを日本で開催する際に海外から研究者を招聘するための費用として使う予定である。
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