2020 Fiscal Year Research-status Report
英語圏における日本アニメ作品研究とその批評的主題の再考察
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19K00161
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
吉本 光宏 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80596833)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アニメ |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は2019年度に開始した英語圏における学術的アニメ研究の文献を調査し、さまざまな批評的関心の整理を行うという作業を継続して行いながら、英語による単著書執筆のための準備を本格的に開始した。アニメ作品『AKIRA』に関する学術研究や言説の文献調査、収集、精読は前年度にほぼ終了していたが、今年度はさらに英語圏アニメ研究全般の現状や傾向の見取り図作成に必要な作業、とくに主要な批評的テーマや論点を確認するという課題に一定の区切りをつけることができた。単著書の大まかな構成や章立ての案も、暫定的なものではあるが決まりつつある。また英語圏や海外でのアニメ研究を批判的に再検討するという課題に関連して、前年度に引き続き国際共同セミナー“Suspensions of Concentration: Kimetsu no yaiba and Blockbuster in the Year of the Global Pandemic (Waseda University Anime Seminar)”を2021年3月19日および20日にオンラインで開催した。日本とヨーロッパを拠点に活動する研究者のグループを中心に、アメリカやアジアの研究者も加わり、『鬼滅の刃』を作品論や文化論、グローバル市場とメディア産業論、受容論など多角的な観点から検討し活発に議論を行った。セミナーの成果の一部は、2021年秋に刊行される紀要Transcommunicationの特集号に掲載されることが既に決定している。さらに2019年11月に二日間にわたって早稲田大学において開催した国際シンポジウム「アニメを理論化する:批評概念の創造とその可能性の条件」で発表された研究論文を集めて編集した学術論集の企画書が、現在英国の学術出版社によって審査中であり、2021年夏までには結果が判明する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は新型コロナウィルス感染症の急激な拡大とともに始まったが、当初年内のパンデミック終息を想定し、年度の後半に海外での研究発表や研究協力者との意見交換、日本での国際シンポジウムや国内外のゲストによる講演会などを行うことを予定していた。しかし、秋になってもトンネルの出口が見えない状況下では、これらの計画すべてを白紙に戻さざるを得ず、コロナ禍のなかでどう研究を進めるのかを根本から再検討することを余儀なくされた。幸い前年度に計画を前倒しする形でアニメ研究の現状や制度についての国際シンポジウムを開催できたので、本研究に役立つヒントやフィードバックを得ることができていた。またシンポジウムの成果を学術書として出版する作業を研究協力者とともに進めるなかで、単著書で取り上げるべき新たな批評的視点やテーマに気づくことができたことも大きな収穫の一つである。元々は本年度にブリュッセルで連続して実施する予定の国際公開シンポジウムと専門家に参加を限定したセミナーは、パンデミックのためにキャンセルとなり、代替のイベントを計画するような状況ではなかったのだが、最終的には規模の大幅な縮小とテーマ変更を余儀なくされたとはいえ、年度末にオンラインの国際共同セミナーとしてとして何とか開催にこぎつけたことは幸いであった。一方で英文単著書の執筆へ向けての段取りは確実に整いつつある。まだ本の一部になることが確定しているわけではないが、各章のセクションになる可能性のあるいくつかの原稿の執筆に既に取り組んでおり、今後研究時間をどう確保するかが課題として残ってはいるが、本格的に原稿執筆を開始する段階は近づいている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度も昨年同様、厳しい年になりそうである。海外での共同研究の推進や研究の途中経過の発表は、本研究の重要な一部であるが、今後もコロナ禍で海外出張ができる見込みがほぼ存在しない。また海外から研究者を招聘して、国際共同研究シンポジウムやセミナーを開催できる可能性も限りなくゼロに近い。今年度もすべての共同研究や学術交流がインターネットを使ったものになることはほぼ確実であり、それを前提に具体的に何ができるのか、感染状況を注視しながら考えたい。本年度はこれまでの研究成果を目に見えるかたちにまとめること、またそのために必要な作業を継続すること、さらに本研究にもとづいて執筆する英文単著書のための準備作業を終え、本格的に執筆を開始することを中心に研究を進めたい。以下が具体的計画の要点である。(1)前年度3月に行った国際共同セミナーで発表された論文や議論を早稲田大学国際コミュニケーション研究科の紀要Transcommunicationの特集号としてまとめ、共同セミナーが提起した問題や今後の課題を論じたテキストを執筆し秋には出版する。英語の紀要はオープンアクセス刊行物としてネット上で広く公開されているため、国内外からのさまざまな反応が時間的な遅延なく期待できる。(2)第1回国際シンポジウムの成果にもとづいたアニメ研究とその制度に関する学術論集は、英国の学術出版社へ提出した企画が通った場合、その出版へ向けてさらに作業を進める。却下の場合は共同編集者と企画を見直し修正後、他の大学出版局にコンタクトを取る。(3)執筆予定の英文単著書の構成をさらに練り上げ確定する。またそれにともない新たに必要になる資料を収集する。準備が整えば、本格的に執筆を開始する。
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Causes of Carryover |
予定をしていた海外・国内出張がすべてコロナ禍で不可能になり、交通費や滞在費などの予算を使うことがなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。翌年度分として請求した助成金と合わせた研究費は、おもに研究資料購入のために使用する予定であるが、コロナ感染やワクチン接種の状況しだいでは、国内外の移動ができるようになる可能性も否定できないので、その際には海外・国内出張をするための費用、また講演会やセミナーへの講師や研究者を招聘するために必要な費用としても使うことを考えている。
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