2021 Fiscal Year Research-status Report
英語圏における日本アニメ作品研究とその批評的主題の再考察
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19K00161
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
吉本 光宏 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80596833)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アニメ |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、英語圏における日本アニメ作品研究とその批評的主題というトピックを、狭義のアニメ研究に限らず映画・メディア研究、さらには人文学の言説や制度というより大きな文脈と関連づけて考察する作業を行った。研究課題に直接・間接的に関連した書籍、論文、映像を含むその他の資料を継続して収集しつつ詳細な研究ノートを作成することで、執筆予定の単著書の構成および解像度が大幅に向上し、その全体像がたんなるプランではなく、現実的なものとしてようやく形を取り始めた。日本と英語圏でのアニメ研究の共通点と差異を明確にし、両者の差異が意味するものをより正確に理解するためには、特定のアニメ作品を詳細に分析することに加えて、実証的な歴史研究とは別のかたちで、過去半世紀のアニメ史を論じることが必要不可欠である。そこで本研究年度においては、1945年以降の日本社会の歴史的変化を時代区分によってモデル化するさまざまな試みと関連づけて、アニメを中心にした文化変容の大きな歴史的モデルの構築に多くの時間を費やした。またアニメ研究におけるテクストの役割についても理論的考察を行い、一定の成果を挙げることができた。もう一つの大きな理論的な成果は、サブカルチャーという一見自明でありながら実は分かりにくい概念について、整理することができたことである。日本語のサブカルチャーと英語のsubcultureは同じものなのか。アニメはサブカルチャーあるいはsubcultureなのか。サブカルチャー、サブカル、オタク文化、ポップカルチャーとアニメは関連づけることができるのか、また英語圏のアニメ研究および日本のアニメ批評は実際どのように位置づけてきたのか。こうした問いに対するある程度説得力のある答えを見つけることができたのも、本年度の研究の主要な成果の一つである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は新型コロナウイルスのパンデミックに大きな影響を受けたものの、2021年度には状況が少しずつ改善し、年度後半には当初の研究計画を再開できる可能性があると考えていたが、結果的には2020年度と同程度あるいはそれ以上に新型コロナによる負の影響を受けてしまった。前年度の遅れを取り戻すために、海外でシンポジウムを企画・開催したり学会に参加したりする予定だったが、日本国内での移動もままならない状況下では、海外出張が不可能であったのみならず、外国の研究者を日本へ招聘し、セミナーを行ったりシンポジウムを行ったりすることもできなかった。オンラインという手段にはもちろん多くの利点があるとはいえ、英語圏の研究者と直接議論を行い新たな知見を学ぶ機会を本年度もまったく持てなかったことは、正直想定外であった。自分一人で資料を集め研究を進める部分に関しては、かなり予定通り進めることができた一方、専門家や若手研究者との対話から受ける刺激がなく、研究の部分的成果を公に発表する機会もなかったため、残念ながらバランスを欠いたかたちで研究を進めざるをえなかった。英語圏でのアニメ研究を批判的に再検討し、最終的にはその結果を英語の単著書を出版することで公表することを目標とする本研究にとって、英語圏研究者との定期的な交流は必要不可欠である。しかし、国境を越えた移動が実質的に不可能な状況下で、目標達成に向けて計画通り研究を遂行することは、相当困難であることを確認する結果になってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点ではまだ新型コロナウイルス感染症が完全にコントロールされているわけではないが、国内では自由に移動ができるようになり、海外渡航や入国に関する制限も徐々に緩和の方向へ進んでいる。こうした状況を鑑み、感染が再拡大しないことを前提に、2023年10月から3月にかけて、国内および海外から研究者を招いてセミナーを開催する予定である。国境や言語の境界を越えて行われるアニメ研究が生み出す差異に、さまざまな立場が異なる研究者は具体的にどのように対応しているのか、あるいは対応することを避けているのか。アニメ研究とも重なる関連分野、たとえば映画研究やメディア研究では、異なる言語による言説空間の壁を乗り越えたり媒介したりする試みがなされているのか。なされているとすれば、そこからアニメ研究は何を学ぶことができるのか。こうした批評的テーマを核に、可能であれば月に一度のペースで対面でのセミナーを行いたい。海外での発表に関しては、2022年10月に国立台湾大学で開催される日本学の国際学術シンポジウムに基調講演者として招待されており、そこで本研究課題と関連したテーマで講演ができないかどうかを検討中である。こうした他研究者との交流や共同研究に加えて、資料収集および研究ノートの作成を継続して行い、英語での単著書の企画書を完成させ、サンプルチャプターを一つ書き上げることを目指している。
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Causes of Carryover |
2021年度も2020年度と同じく、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、海外出張が許されず、国内の移動にも大きな制限が課せられ、交通費や滞在費などの予算を使うことがまったくできなかった。本年度は現時点では小規模のセミナーを開催することができる見込みであるため、繰り越し分については講演者の招聘に必要な費用として使う予定である。
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