2019 Fiscal Year Research-status Report
ジュゼッペ・タルティーニの理論的著作における音楽の数学的基礎づけとその思想的背景
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19K00164
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
大愛 崇晴 同志社大学, 文学部, 准教授 (70587980)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | タルティーニ / 音楽理論 / ピュタゴラス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、18世紀イタリアのヴァイオリン奏者兼作曲家のジュゼッペ・タルティーニ(Giuseppe Tartini, 1692-1770)の理論的著作の検討を通じて、古代から近世にかけて西洋音楽理論の基盤をなしていた音程関係の数学的考察が、啓蒙主義時代にいかに継承されたのかを歴史的に検証することを目的とする。古代ギリシャのピュタゴラスによる協和音の原理の発見以来、音程と数比の関係性を中心的な主題としてきた伝統的な音楽理論の思弁的な性格は、18世紀において、啓蒙思想と経験主義的な物理学の勃興により、退勢となったとされる。他方で、タルティーニは独自の数学的論証によって、ピュタゴラス以来の音楽理論の思弁的伝統に沿うかたちで、音程や音階の問題を論じていることが先行研究によって明らかにされている。本研究の1年目にあたる令和元年度は、『調和に関する真の知識に基づく音楽論』(1754年、以下『音楽論』)をはじめとするタルティーニの理論的著作を、先行研究に照らしつつ、丹念に読み込むことによって、当時から不明瞭で晦渋とされたその内容を把握するとともに、その主張にどのような思想的背景があるのか、彼の理論が先行する時代のどのような原典に基づいて構築されているかを解明することを目標とした。この作業については、次年度も継続して行う計画であるが、現在のところ、『音楽論』において古代と当代の音楽の差異について論じられている点に着目し、とりわけ音楽による感情喚起についてタルティーニがどのような見解を抱いていたかを、同時代のタルティーニに近い他の著者による文献との比較も行いつつ、明らかにすべく研究を遂行している。これは、音楽による感情喚起が脚光を浴びた18世紀西洋の音楽観をより多角的に理解する上で重要な作業となるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、当初計画していたよりも研究の進捗状況は思わしくなかったと判断せざるを得ない。その要因としては、勤務先の業務に大幅に時間を割かざるを得なかったことに加え、研究対象とした文献史料の読解が、主としてその語法の難解さにより、計画通りに進まなかったことが挙げられる。さらに、2020年3月に本研究に関わる史料調査をイタリアで行う予定であったが、新型コロナウィルスの世界的感染拡大の影響、とりわけイタリアにおける深刻な感染状況と、調査を予定していた史料館・図書館が一時閉鎖されたことにより、それが実現しなかったことも、研究の進捗に重大な悪影響を及ぼした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究の推進方策について、タルティーニの理論的著作、およびそれに関連する文献史料を丁寧に読み込んでいくという基本路線は変わらない。他方で、国内では入手困難な史料を調査・収集するために、イタリアでの実地調査を行う必要があり、今後の新型コロナウィルスの感染状況や、イタリアにおける史料館・図書館の開館状況などに応じて、可能であれば、実地調査を実施したい。それが困難である場合でも、国内で入手できる史料、外国から取り寄せられる史料については、可能な限り収集に努める。
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Causes of Carryover |
当該年度に執行予定だった旅費(イタリアでの史料調査)を執行できなかったため。次年度使用額については、新型コロナウィルスの感染状況、出入国の管理状況、イタリアにおける史料館・図書館の開館状況等を注視しつつ、可能であれば、イタリアでの史料調査を実施するために使用する予定である。また、翌年度分として請求した助成金については、主として、研究の遂行に必要な図書・史料の収集や、パソコン等の物品購入費として使用する計画である。
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