2020 Fiscal Year Research-status Report
ジュゼッペ・タルティーニの理論的著作における音楽の数学的基礎づけとその思想的背景
Project/Area Number |
19K00164
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
大愛 崇晴 同志社大学, 文学部, 准教授 (70587980)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | タルティーニ / 音楽理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、18世紀イタリアのヴァイオリン奏者=作曲家のジュゼッペ・タルティーニ(1692-1770)の理論的著作の検討を通じて、古代から近世にかけて西洋音楽理論の基盤をなしていた音程関係の数学的考察が、啓蒙主義時代にいかに継承されたかを歴史的な観点から検証することを目的とする。本研究の2年目にあたる令和2年度は、タルティーニの理論的主著である『調和に関する真の知識に基づく音楽論』(1754年、以下『音楽論』)の第5章で展開されている古代ギリシャ音楽と当代の音楽の比較論の検討を中心に研究を遂行した。同時に、民謡に着想を得たタルティーニの無伴奏ヴァイオリンのための小曲〈タッソのアリア〉に注目し、『音楽論』第5章では古代音楽が持っていた情動効果の基本原理とされ、彼が規範として掲げる「自然」概念が、この曲の創作理念として作用している可能性を明らかにした。この研究成果は美学芸術学会第23回大会(2020年10月24日、オンライン開催)で口頭発表するとともに、査読つき学術論文「ジュゼッペ・タルティーニ〈タッソのアリア〉の創作理念―『音楽論』第五章における「自然」概念を手がかりに―」(『美学芸術学』第36号、美学芸術学会、2021年3月所収)として公表した。また、タルティーニが抱く古代音楽観を、最初期のオペラ作曲家であるヤコポ・ペーリ(1561-1633)およびタルティーニと同時代の貴族ジャンリナルド・カルリ(1720-1795)の古代音楽観と比較検討することにより、バロック期のイタリアにおける古代ギリシャ・ローマの音楽に対する理解の諸相を、研究論文「理想としての古代ギリシャ・ローマの音楽―ペーリ、タルティーニ、カルリの古代音楽観―」(『日本チェンバロ協会年報』第5号、日本チェンバロ協会、2021年5月所収)において論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記【研究実績の概要】において記したように、令和2年度は、タルティーニが『音楽論』で論じる古代音楽観について一定の研究成果を得ることができた。しかし、これらの成果にもかかわらず、本研究の主眼であったタルティーニの音楽理論における数学的側面についての分析、および彼の理論のフランス百科全書派への受容に関する研究の進捗状況はいまだ思わしくない。令和3年度においては、当該テーマについての研究を鋭意遂行する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の本研究の推進方策について、タルティーニの理論的著作、およびそれに関連する文献史料を丁寧に読解するという基本姿勢に変更はない。他方で、国内で入手困難な史料を調査・収集するためにイタリアでの実地調査を行う必要を感じているが、依然として新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりが終息する見通しがつかないなか、海外渡航を要する調査は困難な状況である。そのため、状況が好転するまでは、国内で入手可能な史料についての調査・収集に努め、その分析に専念する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、当該年度に執行予定だった旅費(イタリアでの史料調査)を執行できなかったためである。次年度使用額については、新型コロナウイルスの国際的な感染状況、出入国の管理状況、イタリアにおける史料館・図書館の開館状況等に注意しつつ、引き続きイタリアでの史料調査を実施するための旅費として使用する計画である。。また、翌年度分として請求した助成金については、主として図書資料・史料の収集、物品購入費として使用する計画である。
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Research Products
(3 results)