2021 Fiscal Year Annual Research Report
ジュゼッペ・タルティーニの理論的著作における音楽の数学的基礎づけとその思想的背景
Project/Area Number |
19K00164
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
大愛 崇晴 同志社大学, 文学部, 教授 (70587980)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 音楽理論 / タルティーニ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、18世紀イタリアのヴァイオリン奏者=作曲家のジュゼッペ・タルティーニ(1692-1770)の理論的著作の読解と分析を通じて、古代から近世にかけて西洋音楽理論の基盤をなしていた音程関係の数学的考察が、啓蒙主義時代にいかに継承されたかを歴史的な観点から検証することを目的とする。本研究の3年目にあたる 令和3年度は、タルティーニの主著である『調和に関する真の知識に基づく音楽論』(1754)とともに、彼の最晩年の著作『全音階類に含まれる音楽的調和の諸原理についての論考』(1767)の読解に集中的に取り組んだ。タルティーニの著作全体に当てはまることではあるが、内容・文体両面においてその読解は困難をきわめ、読解自体は相当程度進捗したものの、年度末までに本研究の目的に資する有意な結論を得るには至らなかった。 研究期間全体を通じて得られた成果としては、タルティーニの古代音楽観を明らかにしたことが挙げられる。彼はオペラのレチタティーヴォから類推されるような、失われた古代の原初的な音楽のあり方を理想とし、その根拠を「自然」に求めた。そうした彼の理念は、彼が同時代の民謡から着想を得て作曲したいくつかの《タッソのアリア》という小曲において実践されている。また、タルティーニと交流のあった同郷の貴族ジャンリナルド・カルリ(1720-1795)が示す古代音楽観を、タルティーニのそれと関連させつつ明らかにした。これらの成果は、18世紀西洋音楽史において、理念としての「古代」がどのような役割を果たしていたのかという、これまで十分に論じられてこなかった問題を解明する上で、きわめて重要な意義を持っている。 今年度で本研究は完了するが、今後も引き続き、上記二つの著作を中心に、タルティーニの他の論考や手紙などの読解、分析、比較の作業を通じて、18世紀ヨーロッパの音楽理論史に新たな知見をもたらすことを目指す。
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