2019 Fiscal Year Research-status Report
1910年代米国と20年代日本におけるマンガ「親爺教育」の美学的研究
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19K00165
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Research Institution | Shokei University |
Principal Investigator |
三浦 知志 尚絅大学, 現代文化学部, 准教授 (20583628)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 新聞漫画 / 「親爺教育」 / 1910年代アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「親爺教育」の美学的特徴を、主に1910年代米国と1920年代日本それぞれのマンガ史的・視覚文化史的文脈のなかで記述することによって、米国の「親爺教育」の何が日本に影響を及ぼしたのか/及ぼさなかったのかを明らかにするものである。 初年度は主に、1910年代米国における「親爺教育」の調査を行った。「親爺教育」のエピソード数は膨大で、米国においても「親爺教育」の全貌を一度に見ることのできる著作は存在しない。それゆえ、新聞連載が始まった1913年からおよそ10年間の「親爺教育」について、掲載された新聞や単行本、および「親爺教育」についての先行研究を調査し、上記期間のマンガ資料を可能なかぎり網羅的にリスト化することが必要だと考えた。近年ではさまざまな機関が新聞等のデジタルデータをインターネットで閲覧できるため、研究の進捗を考慮し、原則としてこうしたサービスを利用した。現在、1913年から1917年半ばまでリスト化しており、また同時代の単行本もほぼ入手済みである。 また「親爺教育」の物語内容について、 20世紀初頭以降のさまざまなマンガとの共通点および相違点を考察した。具体的には「アイルランド人(貧困層)の登場人物」の系譜を軸として記述を行い、19世紀末から20世紀前半にかけてのアイルランド人表象の変化を読み取った。さらに「親爺教育」はこの時期、舞台化・映画化も行われている。実際の翻案のあり方がどのようなものだったかについて、当時の新聞記事をもとに記述を行なった。 上記調査の内容の一部については、以下で公表している。三浦知志「「親爺教育」1913-14年の新聞掲載状況に関する報告」『尚絅大学研究紀要』第52号、169-209頁、2020年。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、「親爺教育」のエピソードをすべて掲載しているだろうと考えていた『ニューヨーク・アメリカン』紙のマイクロフィルムを、アメリカから取り寄せようとしていた。ところが、新聞のマイクロフィルムを所蔵するニューヨーク公共図書館やアメリカ議会図書館に問い合わせたところ、現在、マイクロフィルムの複製や販売を行っていないということであった。それが判明するまでに時間がかかり、資料収集の手段をマイクロフィルムからインターネットのデジタルアーカイブに切り替える決断が遅れた。 幸いにして、アメリカ議会図書館のデジタルアーカイブが充実しており、資料収集をなんとか行うことができている。もっとも、当てにしていた『ニューヨーク・アメリカン』のデータはなく、「親爺教育」の各エピソードをいくつもの新聞からかき集めているという状況であり、想定していたよりはリスト作成に時間がかかっているが、それでもリスト化の目処はついた。 アメリカの「親爺教育」調査に手間取っていることが明らかになった頃から、当初の予定を変更し、当初は2年目の予定としていた日本語版「親爺教育」の調査を、1年目に前倒しで行うことにした。具体的には岡山県立図書館での日刊『アサヒグラフ』の調査である。ここでの「親爺教育」掲載データはおおむね揃えることができた。また、日本語版単行本も入手済みで、2年目で行う研究分のおよそ半分程度はすでに終えている。 結果として、研究の進捗は、多少変更があったものの全体的にはおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは早急に1910年代、できれば20年代初頭までの「親爺教育」のリスト化を終えたい。20年代初頭までリスト化したい理由は、おそらくこの時期のエピソードに、1923年開始の日本語版「親爺教育」の原典があるだろうと推測しているからである。日本語版「親爺教育」については、上述のようにほしいデータがおおむね揃っているので、リスト化さえ終わればすぐに照合が可能である。 2年目では、1910年代アメリカ、および1920年代日本における「親爺教育」が、それぞれのマンガ史の文脈にどのように位置付けられるのかについての考察を行う必要があるが、双方で完璧を目指して中途半端な研究になるのは避けたい。まずはアメリカ「親爺教育」研究に全力を注ぎ、その研究成果を足場として日本のマンガ史との比較ができるように努めたい。
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Causes of Carryover |
当初予定していた新聞マイクロフィルム購入がなくなり、その分の金額が残っている。現状ではなおマイクロフィルム購入の予定はなく、かわりに研究関連図書や研究発表のための物品の購入、および調査・研究会のための旅費にあてるつもりである。
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