2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00173
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
吉住 磨子 佐賀大学, 芸術地域デザイン学部, 教授 (20284622)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 百武兼行 / イタリア / Henry Joseph Thouron / チュウロン / レオン・ボナ / 松岡壽 / アッカデ―ミア・ジージ / マルグッタ通り |
Outline of Annual Research Achievements |
科研費で実施中の本研究は,2016年から私が行ってきた百武兼行(1842~84年)のイタリア時代(1880~82年)の研究の継続発展となる研究と位置付けている。本研究の目的は,これまで詳細に論じられることがなかったこの画家のイタリア時代に光をあて,不明であった諸点を明らかにし,この画家の歴史を明らかするとともに,最終的には近代洋画史におけるこの画家の再評価を試みることである。
2019年度はまず,百武所縁の美術館である「徴古館」(鍋島家に関わる作品及び資料を収蔵)において,「イタリア時代の百武兼行」と題して研究発表(25分間)を行い,これまでの研究成果を発表した(6月1日)。その発表のもととなった2017年から2019年にかけて私が行った研究論文を,この発表後さらに加筆修正し,「イタリア時代の百武兼行―ローマにおける制作環境と画題選択の背景を探る」として公刊した(『公益財団法人鍋島報效会研究助成研究報告書第9号』119~148頁)。
一方,9月にはイタリア現地調査を行った。本調査の成果は,百武や松岡壽とローマで交流したことが記録に残る米人画家「チュウロン」を,カタスト(土地登録制度)の記録を掘り起こすことによって,当時,マルグッタ通りに居住していたHenry Joseph Thouron(1851~1915年)に同定し,初めてこの人物の正体を明らかにしたことである。さらに,チュウロンが,百武もパリで教えを受けたレオン・ボナ(1833~1922年)のアトリエにいたことも突き止め,3者の関係を浮かび上がらせた。以上の研究成果は,次の論文として公刊した。「イタリア時代の百武兼行Ⅴ―<チュウロン>の正体―」『佐賀大学芸術地域デザイン学部研究論文集第3号』2020年3月,117~124頁。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は,上述のように「チュウロン」の正体を明らかにし,チュウロンの半生を調査したことにより,これまで20世紀初めの百武関連資料に記されてはいたが,史実である証拠はなかった,百武,チュウロン,レオン・ボナ,そして,チェーザレ・マッカリの4者の関係が史実であったことを明らかにできた。以上のことは,百武の研究史の上で,これまで欠落していた,小さいが看過できなかった重要な部分を補填することに繋がったと考えている。 イタリアでは,ローマ,トリノ,サリアーノにおいて調査を実施したが,ピエモンテ地方においては,百武の作品に影響を与えたと私が考えている(2018年既刊論文)3体のピエトロ・ミッカの像を初めて実見し,写真ではわかりえなかったディテールを調査することができた。これにより,私のこの仮説を図像学的に裏付ける可能性をさらに高めることができた(このテーマの論文を2019年度内に公刊することはできなかった)。 一方,ルーベンスの版画をもとに制作されたと考えられる百武の<ネメアのライオンと戦う男>を,19世紀ローマの官学派のルーベンス受容という新しい文脈で読み解くために,2019年度前半は,19世紀後半のローマの官学派の画家やアカデミーについての文献の収集を実施した。 以上のように,研究計画の8割ほどを達成することができたと考えることから,区分(2)を選択する。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は,収集した資料をもとに<ネメアのライオンと戦う男>についての論文を執筆する。また,<ピエトロ・ミッカ図制作の背景(補遺)>として,もう1本論文を著すことも計画中である。そして,2020年度も昨年度につづき,9月にはイタリアでの現地調査を実施し,これらの論文執筆に必要とされる調査および資料収集を行う予定である。 2019年9月には,予定していたAnna Villari氏の代わりに,Fabio Benzi氏(キエーティ大学教授,イタリア近現代美術史)と会って意見交換を行い,2021年に開催予定のコロクィム参加について,Benzi氏から内諾を得た。コロクィムの内容によっては,今後,ゲストスピーカーの変更もありうるが,2020年度は2021年度のコロクィムの準備を開始し,内容,参加者,実施場所などを確定させたい。 以上のように,今後の研究の道筋としては,ローマ時代の百武の作品調査とローマにおける百武の行動や交流関係を現地調査と文献調査の両方から続行する。そして,論文の公刊やコロクィムの開催によって,研究成果を発表する。このようにして,百武研究史の中で抜け落ちていた空白部分を埋めていき,冒頭で記したように,最終的には百武兼行の再評価につなげていくことを目指す。
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