2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00173
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
吉住 磨子 佐賀大学, 芸術地域デザイン学部, 教授 (20284622)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 百武兼行 / 国際芸術家協会 / 鍋島直大 / 百武兼行作「鍋島直大像」 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は百武兼行の「ネメアのライオンと戦う男」についての現地調査を実施する予定であったが、海外渡航が困難だったためそれが叶わなかった。そこで、予定を変更し、以下で述べるテーマについて国内での文献調査を行った。その研究成果の一部を次の論文として公刊した。(「イタリア時代の百武兼行Ⅵ-『国際芸術家協会』との関わりについて」佐賀大学芸術地域デザイン学部研究論文集第4号、2021年3月、1~8頁。) 百武がローマ滞在時に、『国際芸術家協会』(1870~1957年)(以下『協会』)の会員であったことは資料から判明しているが、当時、画家としては無名であった百武が当代一流の芸術家たちをメンバーとした『協会』となぜ関りをもつことができたかは、全くわかっていなかった。この問題を明らかにするため、まずV.モンカダやM.C.サリメーリらの『協会』に関する先行研究をもとに、『協会』の歴史について整理した。調査過程において、サリメーリ氏とはメールでやりとりをし、活字にはなっていない『協会』についての情報を得ることもできた。次に百武のローマ滞在時(1880~82年)の行動を改めて子細に掘り起こし、そこから百武と『協会』の接点を探っていった。その結果、二者を繋いだものは、鍋島家第十一代藩主でイタリア日本特命全権公使として百武とともにローマに滞在した鍋島直大(1846~1921年)であったという結論を導き出した。また、百武の「鍋島直大像」(1882年)は、良好な日伊の外交関係を表象するための装置として機能したという先行研究による仮説を、本研究において直大の公使としての行動やふるまいを調査することによってより強固なものとした。 以上のように、2020年度の研究によって百武兼行研究における空白部分の一部を補填できたと同時に、百武の最大のパトロンとしての鍋島直大のローマにおける新たな足跡を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Covid19ウィルス感染症拡大によって、上欄でも触れたようにイタリアでの現地調査が不可能であったため、計画していたテーマの変更を余儀なくされたため。また、新しく設定したテーマの研究については、一定の結論を導き出すことはできたが、一次資料にあたることができなかったことにより、論文の説得性を最高度に上げることができなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は本研究の最終年度にあたるため、この課題をひとまずは次の形でまとめたい。まず、冬季にコロキウム「百武兼行とイタリア―近代日本とイタリア」(仮題)を開催し、私の研究成果を発表する。また、このコロキウムにおいて、「政治的・文化的文脈における近代日本とイタリアの美術」(仮題)というテーマで、複数の研究者に各自の視点から報告をしてもらう。これによって百武兼行をより広範な角度から捉え直すことができればと考えている。 次にこれまでの研究をまとめ、1年ないし1年半後には研究成果を小編著書として刊行することを目指し、原稿のファーストバーションを完成させる。 海外現地調査が可能となれば、8~9月の間のいずれかの時期にローマのサン・ルーカアカデミーの文書館等を訪れ、文献調査を実施する。 本研究終了後には、引き続き「百武兼行研究-英国時代に焦点をあてて」と「百武兼行-フランス時代に焦点をあてて」の課題に着手する予定である。本課題研究がこれらの二つの研究に有機的に繋げられるよう、本課題研究に取り組む今年度も常に百武兼行の全史を念頭に入れながら、研究を進めることが肝要であると自覚している。
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Causes of Carryover |
2020年度はCovid19ウィルス拡大のため,イタリア現地調査などが不可能であったため。令和3年度はイタリアへの渡航費用(交通費,宿泊費等)に加え,コロキウム開催にかかる費用,すなわち講師の謝金およびその交通費・宿泊費,そして,イタリア人講師を招聘する場合はその通訳者への謝金として使用する予定である。
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