2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00176
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
仲町 啓子 実践女子大学, 文学部, 教授 (80141125)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 絵師の存在形態 / 落款 / 款記 / 印章 |
Outline of Annual Research Achievements |
「印章から読み解く〈作者〉像――集団的制作とアイデンティティの問題」において、室町時代後期から江戸時代前半(16世紀初めから17世紀)の狩野派と琳派の絵師が用いた「印章」に着目して、印章の共有と継承の実態とそれが作者あるいは作者集団の在り方とどのように関係しているかについて考察した。特に狩野元信(1476-1559)においては、「元信」印が弟子たちに共有されたばかりではなく、次世代の狩野派絵師に継承されたことの意味について考察した。俵屋宗達(生没年不詳)の場合は、同じく共有と継承と言っても狩野派とは実情が大きく異なる。その理由についても推測した。「平田玉蘊の2作品《美人図》と《呂尚垂釣図》」においては、江戸時代後期の女性画家・平田玉蘊(1787-1855)がある時期用いた篆書印が、頼山陽をはじめとした頼家の儒者との交流を機縁としていること、それまで円山四条派の画技を中心に学んできた彼女の価値観が文人趣味を取り入れつつ微妙に変化していった状況を反映していることなどを示した。また『光琳論』のうち「第三章 公家社会への接近と光琳初期の制作」では、尾形光琳(1658-1716)が京都の公家社会に軸足を置いて活躍していた40歳頃に制作した《蹴鞠布袋図》で用いた青銅器風の特殊な印章の意味について、松花堂昭乗(1582-1639)や禅僧たちが用いた類似の青銅器風の印章との関連を述べ、印章が単なる作者の署名ではなく、価値観や帰属意識とも密接に関係していることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍にあって、調査研究に赴くことが困難になったため、当初の研究にやや遅れが生じている。しかしながら、3編の論文によって、考察はかなり深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年も調査活動は大幅に制限されることが予想されるので、できる限りそれを補うために文献資料の博捜に重点を置いて行くつもりである。これまでに集積してきた絵画資料なども見直して、そこからも新たな意味を見いだしてゆきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により特に海外調査が制限されたため。 図書の購入と国内調査、及び資料の複写などに当てたいと考えている。
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Research Products
(3 results)
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[Book] 光琳論2020
Author(s)
仲町啓子
Total Pages
364
Publisher
中央公論美術出版
ISBN
978-4-8055-0880-0