2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00176
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
仲町 啓子 実践女子大学, 文学部, 教授 (80141125)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 絵師の存在形態 / 落款 / 款記 / 印章 |
Outline of Annual Research Achievements |
「款記と印章から読み解く絵師像」の研究の一環として、江戸時代(18~19世紀前半)の諸派において、款記と印章が多様化する状況について考察した。江戸時代には、これまでのように公家・武家・寺社などの御用絵師として活動する絵師たちの他に、いわゆる権門に全面的には従属しない絵師(町絵師)や趣味として絵を嗜む知識人層などさまざまな存在形態の絵師が輩出され、絵画制作に従事する層が多様化する。その結果として、それぞれの人々の抱いた価値観や存在形態の違いによって款記と印章は大きく形式が異なってくる。むしろ価値観や存在形態を主張する手段として、款記と印章が機能したと言っても過言ではない。その点に近代以降の画家たちが制作者であることを明示するために画上に加えたサインとは大きく異なる性格がある。 中国の文人文化を憧憬した南画家たちが用いた中国の詩文等に由来する独特の雅号、西洋文化を学んだ知識人たちが選択した欧文の印章、宮廷の絵所預職に85年ぶりに復帰した土佐光起が落款に書いた左近将監などの官位等のほかにも、個性的な画風を展開した伊藤若冲や曾我蕭白などが同時に款記と印章にも独特なものをを残したことは注目される。画中の文字情報として、絵師の心情・理想・憧憬などを標記する重要な役割を款記と印章は担っていたのである。また形式的にも、款記の書風(楷書・行書・草書・篆書・隷書など)や印章の形体(方印・円印だけでなく、壺型印や青銅器を模した印章、あるいは花押など)の選択には細心の用意と工夫がなされた。こうしてまさに款記と印章が個性的なるものを主張する重要な手段となっていったとき、同時にその継承(部分的あるいは形式的な継承も含めて)が流派観の形成にとって重要な意味を持つものとなってきた。 さらに女性たちの絵画制作活動がしだいに活発となっていった江戸時代、彼女らが用いた独特の款記と印章の性格についても分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍にあって、調査研究に赴くことがかなり困難であったことが主な要因である。それは行く側の問題ばかりではなく、受け入れ側の問題でもあった。そのため、従来までの調査資料を掘り返したり、資料の郵送などによって成果の一部ながらも公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
依然として調査活動は大幅に制限されることが予想されるので、できる限りそれを補うために文献資料の博捜に重点を置いて行くつもりである。これまでに集積してきた絵画資料なども見直して、そこからも新たな意味を見いだしてゆきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍いより海外調査が制限されたため。 急速に改善されるとは思われないので、国内調査や図書などの購入、資料の複写などに当てたいと考えている。
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Research Products
(3 results)