2022 Fiscal Year Research-status Report
Camouflage and its Context: Modern Artistes engaged in the Effort of the World War I and II
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19K00179
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
河本 真理 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (10454539)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | カモフラージュ / 第一次世界大戦 / 第二次世界大戦 / パブロ・ピカソ / セラミック(陶器) |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4(2022)年度も、新型コロナウイルス感染症禍のため、予定していた海外渡航を全て取り止めざるを得ず、図書館も入館者数が制限されたりするなど、全般的に研究が進めにくい状況にあった。その代わり、調査する予定だったアーカイヴや図書館のオンライン上で公開されている資料を精力的に閲覧して、調査を進めることに努めた。 本年度は、ピカソとカモフラージュの関係について研究を進める中で、ピカソが第二次世界大戦後に制作したセラミック(陶器)において、カモフラージュの原理を新たなやり方で再解釈していたことが明らかとなった。 形態と色彩を分離して対象を解体するという点で、カモフラージュに用いられる迷彩模様とキュビスムには構造上の類似があり、第一次世界大戦時に銃後にいたピカソもこれを意識していた。 第二次世界大戦後にピカソが制作した、一見、抽象画にも見えるセラミック作品《ケープで牡牛をはらう》(1959年、ヨックモックミュージアム)では、輪郭を点線にして途切れさせたうえで、点線の輪郭で示唆される形態と色彩(茶・黄・青色の色面)を分離し、対象を解体することで、モティーフの形態としての認識を妨げる。この結果、闘牛のモティーフを観者の眼から隠すような、一種のカモフラージュに似た効果を生み出しているのである。 《ケープで牡牛をはらう》が最初からモティーフを分かりにくくする意図があったのに対し、《サクランボのある静物》(1948年、ヨックモックミュージアム)は、制作プロセスの途上で、刻線の上に他の線や色を重ねたり、粘土で覆って隠そうとしたりした結果、前の構図を(完全にではないが)隠すことになったセラミック作品である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4(2022)年度は、新型コロナウイルス感染症禍のため、予定していた海外渡航を全て取り止めざるを得ず、図書館も入館者数が制限されたりするなど、全般的に研究が進めにくい状況にあった。調査する予定だったアーカイヴや図書館のオンライン上で公開されている資料を精力的に閲覧して、調査を進めることに努めた。 『西洋美術研究』No. 21の「特集:美術と科学」に合わせて投稿した論文「カモフラージュ:美術/生物学の交差する戦線」が、令和3(2021)年に査読の結果、掲載されることが決定し、研究成果の一部が公刊される予定である。現在、刊行を待っている状況である。 ピカソのセラミックとカモフラージュについては、『ピカソのセラミック―モダンに触れる Picasso Ceramics : The Modern Touch』(展覧会カタログ、ヨックモックミュージアム、2022年)にまとめた。 また、第一次世界大戦時にカモフラージュに携わったフランス人芸術家のうち、コラボラシオン(対独協力)の一環で1941年に行われた、ドイツ視察旅行に参加した者もいた。このドイツ視察旅行を含めた、第二次世界大戦期のフランスとドイツの芸術上の関係については、「〈岐路〉に立つ仏独の芸術家―第二次世界大戦時のフランスにおけるコラボラシオンと収容」(大久保恭子編『戦争と文化―第二次世界大戦期のフランスをめぐる芸術の位相』三元社、2022年所収)で論じた。 このように、オンライン上でできる調査を進め、今までの研究成果の一部をまとめたが、カバーしきれなかった部分もあったことは否めない。したがって、全体としては、(3)やや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4(2022)年度は、新型コロナウイルス感染症禍のため、予定していた海外渡航を全て取り止めざるを得ず、研究期間を1年延長した。令和5(2023)年度には、フランスに渡航し、IMEC(Institut Memoires de l'edition contemporaine)等で調査する。今までの調査結果を分析したうえで比較し、研究成果をまとめることに注力する。また、バイアウト制度も利用し、研究時間を確保する。
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Causes of Carryover |
令和4(2022)年度は、新型コロナウイルス感染症禍のため、予定していた海外渡航を全て取り止めざるを得ず、その分次年度使用額が生じた。そのため、研究期間を1年延長し、令和5(2023)年度には海外渡航を行う予定で、バイアウト制度も利用する。
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