2021 Fiscal Year Research-status Report
明治後期における戦争画の移入と展開:トモエ会の活動を中心に
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19K00181
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
向後 恵里子 明星大学, 人文学部, 准教授 (80454015)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 美術史 / 身体イメージ / 戦争画 / 戦争のイメージ / イメージ論 / 視覚文化論 / 表象文化論 / 兵士のジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度においては、コロナの流行のもとで大きく様変わりした研究教育環境、移動の制限のもと、申請当初に計画していた調査出張は計画を大幅に変更せざるを得なかった。そのため、予算をまずは文献等資料の収集にあて、以下の3つの方針のもとで調査をすすめた。 1. 19世紀における西洋の戦争画の移入の様相、2. トモエ会の活動と戦争画作例、3. 戦争画の展開におけるパノラマと水彩画の意義 とくに1. 19世紀における西洋の戦争画の移入の様相を集中的に把握するため、当該期から20世紀初期にヨーロッパで活躍した戦争画家たちの資料と、それをさらに支えていたと考えられるアカデミー、歴史画、公共の造形プロジェクトなどについての資料を参照した。また、研究対象となる時期の日本における戦争表象について、トモエ会に至る前史を含めて再検討していった。 こうした調査のもと、戦場や支配地域において出会う(敵や保護されるべき対象としての)他者をどのように表象するのか、また近代化の反映でありナショナリズムのよすがとなり得る〈われわれ〉の兵士の身体をどのようなイメージとつなげて表現し得るのかといった、この時期の日本の戦争画における課題と困難(たとえば人種の表象をとっても、西洋モデルにどこまで一致しうるのか)、および戦争画自体の変容を検討してゆくためのキーとなる視座を再確認した。 また、こうしたイメージにはジェンダー理解が大きくかかわっている。兵士たちは近代的な文明観と国家観のもと、強く・美しく・死すべき男性ジェンダーのあらわれである。敵や庇護対象者には男性と女性が登場するが、かれらには弱さがわりふられてゆく。西洋とは・一九世紀とは異なる環境のもとで、虚構と現実のあいだを戦争画がどのようなビジョンとともにとりむすんでいたのかを、今後も考察してゆきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度に育休を取得し研究を中断し、復帰後も育児のための時間が必要なこと、2021年度もコロナの流行がおさまらずに移動の制限などが引き続いたことのふたつの理由が重なり、研究は当初の計画を変更せざるを得ず、また調査地に限界があるためにやや遅れている。 研究実績の概要に述べたとおり、文献調査を中心にすすめているが、それでもまだ至らないところや以前とくらべると十全に対応できていない点がある。 また、オンラインに対応した映像など教材データの作成・アップロード作業をくりかえしたために、保有していたPCにトラブルが生じ、この点においても研究の遂行がやや遅れる原因となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度においても、海外への移動はコロナ流行以前と同じようには計画が難しいことと思われる。 そのため、今年度はとくに資料の収集と課題の検討、上述したようないくつかのトピックにそった事例の比較検討と考察にウェイトをおき、入手できる文献で得られる情報や視点をまとめてゆく。 幸いなことに、国会図書館の図書館送信資料サービスが個人を対象とするようになり、利用可能な環境が拡大した。これまでも国会図書館に調査に赴いていたが、自宅や研究室で制限なく見続けられる恩恵をまずはいかす予定である。この巨大な文献のデータベースから、これまでに入手に時間がかかってしまった文献をおさえ、ここにはない未刊行のさらなる資料も博捜していきたい。そのため、利用制限が少なくなった各種専門図書館の利用も行ってゆく。
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Causes of Carryover |
先述の通り、調査出張を行えなかったために予算にはまだ余裕がある。 2022年度においては、同時代資料および外国文献・資料の購入を積極的にすすめてゆく。これらは、2次文献を中心に購入してきたこれまでの年度よりも、より大きな予算枠を必要とするものである。また、文献資料の整理・デジタル化や調査・執筆にともなう消耗品類も購入の予定である。
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