2022 Fiscal Year Research-status Report
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19K00183
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
大西 磨希子 佛教大学, 仏教学部, 教授 (00413930)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 則天武后 / 武則天 / 舎利 / 棺槨形舎利容器 / 法門寺 / 衆生 / 供養者 / 弥勒下生変 |
Outline of Annual Research Achievements |
棺槨とは、遺体を直接おさめる「棺」とそれを入れる「槨」からなる葬具であり、この葬具を模って仏舎利を納める容器としたものが棺槨形舎利容器で、いわば中国化した舎利容器である。その文献上の初見と出土遺物とが、いずれも則天武后の執政期にあたることから、棺槨形舎利容器の創始は則天武后に求められている。この棺槨形舎利容器の全国的普及をもたらしたのは、則天武后が主導して実施した儀鳳年間の舎利頒布事業であったと考えられる。これについて令和2年度に中文による論文(「棺槨形制舎利容器的伝播与武則天」)を発表したが、本年度は、その後に得られた知見を加え、日本語による口頭発表を行い、論文にまとめた(「棺槨形舎利容器と則天武后――金棺銀槨の創始と流布」、待刊)。すなわち、真身舎利として特別な信仰を集めた法門寺の仏舎利の形状が、棺槨形舎利容器の創始と関係があったとみられるだけでなく、則天武后が「金棺銀槨」を造らせるにあたり行った布施行為には、真身舎利を自身に重ねようとする暗喩が込められていたと考えられる。つまり、棺槨形舎利容器の創始と普及の背後には、いずれも則天武后の存在があったということになる。 本年度はまた、「衆生」を共通テーマとする学会において、「衆生」を教化の対象となる人間に限定したうえで、人間の居るべき空間に対する認識と仏教美術の表現形式との関係について、中国唐代の作例を対象に研究発表を行った。すなわち、人間の居るべき空間に対する認識は、唐代仏教美術の表現形式を規定する役割を果たしていただけでなく、なかには空間認識が表現形式を変化させたケースも存在することを、西方浄土変、供養者表現、弥勒下生変の三点を対象に検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進んだ部分がある一方で、計画どおりに進められなかった部分もあることから、全体として、おおむね順調に進めることができたと考える。具体的な理由は、つぎのとおりである。 まず、計画以上に進んだ部分については、棺槨式舎利容器と則天武后との関係に関する和文論文の成果が挙げられる。これについては、計画どおり2022年度中に日本語での発表と、それにもとづく論文執筆を行うことができた。さらに、その過程において、以前に中国語による研究発表と論文では見落としていた点を新たな知見として盛り込むことができた。 また、敦煌唐代の弥勒変相図に関する研究発表の成果は、その一部を「衆生」に関する研究発表と論文のなかに盛り込むことができた。 一方で、計画どおりに進めることができなかったのは、中国山西省・蒲州大雲寺涅槃変碑像の銘文に関する調査・研究である。これについては、本研究課題の研究期間内に、釈読、校訂、訓読の作成を計画し、初年度において実見調査を実施した。その結果、これまで銘文の存在が指摘されてこなかった題記があることを確認することはできたものの、その部分が石碑の高所に位置するために一部の文字しか判読することができなかった。そのため、高所に対応する機材を揃えての継続的調査が必要であるが、本年度も現地に赴くことがかなわない状況が続いた。それゆえ、この課題については積み残しという結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
弥勒下生変については、「衆生」に関する研究のなかで部分的に取り上げたものの、唐代における変遷の論文は、まだ発表できていない。そこで、2023年度はその論文の執筆を計画している。 中国山西省・蒲州大雲寺涅槃変碑像の銘文については、現地調査が当面は難しいとみられることから、あくまで不定稿とせざるを得ないものの、釈読と校訂、訓読を作成し、発表することを目指したい。
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Causes of Carryover |
継続的調査を予定していた中国山西省・蒲州大雲寺涅槃変碑像の調査が、実施できなかったため。 これについては、次年度も調査を実現することは難しいとみられる。そのため、初年度に行った調査にもとづき、釈読、校訂、訓読を作成する。
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