2022 Fiscal Year Research-status Report
A comprehensive research on the "brand" of portraits in the fifteenth-century Burgundian court
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19K00186
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Research Institution | Osaka Ohtani University |
Principal Investigator |
今井 澄子 大阪大谷大学, 文学部, 教授 (20636302)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ブルゴーニュ / ネーデルラント / フランドル / フィリップ善良公 / ロヒール・ファン・デル・ウェイデン / 肖像画 / 貨幣 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、①肖像が普及した15世紀ヨーロッパにおいて、北方のブルゴーニュ公国が営んだ宮廷美術が担った重要性を「ブルゴーニュ・ブランド」として示すこと、②三代目ブルゴーニュ公として多くの肖像を残したフィリップ善良公(ル・ボン)が、ブルゴーニュ公国の豊かなコレクションの伝統を背景に、美術作品を使い分けていた様子を明らかにすること、③「ブルゴーニュ・ブランド」の分析を通して、「ブルゴーニュ公国像」を問い直すという今日の学術的課題に、美術史研究の立場から貢献することである。 本年度は、フィリップ善良公の肖像の特性と「ブルゴーニュ・ブランド」の核心を捉えるため、(1) フィリップ善良公の肖像リストの作成と分類を進めた。そのうえで、(2)フィリップ善良公の肖像画の作者として、画家ジャン・ド・メゾンセルとロヒール・ファン・デル・ウェイデンに注目し、研究会やシンポジウムにおいて、作者の制作環境や複製のありかたを議論した。画家ロヒールについては、最もオリジナルに近いとみなされるフィリップ善良公の肖像画と、そこから派生した数多くの複製・ヴァージョンの検討を通して、「ブルゴーニュ・ブランド」がどのように伝播していったかという問題を議論した。(3) フィリップ善良公の治世における貨幣の図像と肖像を比較し、その観察結果を国際学会において発表した。(4)タピスリー作品の事例分析を行い、学会口頭発表、および論文の公表を通して、この媒体が「ブルゴーニュ・ブランド」の重要な一角を担ったことを示した。 以上のように、本年度はフィリップ善良公の肖像に関わる情報を網羅的に集積しつつ、フィリップ善良公の肖像のブランド力の高さと「ブルゴーニュ・ブランド」を示す研究実績をあげることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前年度に引き続きフィリップ善良公の肖像リストの作成に取り組みつつ、作品の調査・分析と「ブルゴーニュ・ブランド」の検討を進めていく計画であった。肖像リストについては、昨年度までの成果を補完しつつ、肖像画の作者や表現の型を基準とした分類を進めることができた。このうち、ロヒール・ファン・デル・ウェイデンによるフィリップ善良公の肖像画については、ロヒールのオリジナルに最も近いとされるマドリード作品を基準に、同時代、および次世代以降に制作された複製やヴァージョンを、来歴・媒体・図像の型等の観点から比較・分析した。この作業を通じて、フィリップ善良公の肖像のブランド力の高さと、「ブルゴーニュ・ブランド」の伝播の様相を具体的に示すことができた。また、今年度は、分析対象を「貨幣」に広げたことで、研究の幅を広げることができた。具体的には、フィリップ善良公の治世に鋳造された金貨・銀貨の図像の特性を分析したうえで、肖像表現との並行関係を探った。この分析により、貨幣の表面(または裏面)に肖像に表わすという習慣は、ブルゴーニュ公国ではフィリップ善良公の次の世代であるシャルル突進公以降の時代に普及していったことがうかがえたが、本アプローチを通じて、ブルゴーニュ宮廷美術におけるブランド戦略のあり方についての多角的な示唆を得ることができた。さらに、本年度は、タピスリー作品についての複数の事例分析を進めることで、この媒体が「ブルゴーニュ・ブランド」の重要な一角を担っていたことを示した。 他方で、今年度もCOVID-19の影響が続いたため、国外での調査を再開することができなかった。この点については、社会情勢が許す範囲内で、次年度以降に遂行する予定である。以上のように、全体としては、本研究はおおむね順調に進展しているが、国外調査に関わるところでは、部分的にやや遅れが生じているという状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの4年間の研究期間のうち、3年間もの間、国外調査を実施することができなかった。そのため、所属研究機関などを通じて手配することが可能な文献・写真資料を確保し、国内で実施可能な作品分析を進めてきた。幸い、デジタル・データの整備が急速に進んだ機関もあったため、多くの新しい情報を入手し、分析の成果を上げることができた。他方で、フィリップ善良公の肖像画群のなかでも鍵となる作品や、大型タピスリー連作など、現地で観察しその特性を精査したり、空間のなかでの装飾的な効果のあり方を確認する必要がある作品も残されている。 次年度は、研究期間を延長した一年目にあたるが、まずはヨーロッパ各地で調査を遂行する機会を探りたい。調査先としては、ベルギー・オランダ・スペイン・イングランドなどを候補としている。所属先機関の業務との調整があるため、限られた期間の出張となることも見込まれるが、優先順位を定め、可能な限りの調査を行う予定である。渡航が難しくなってしまった場合は、文献資料と写真資料(デジタル・データ含む)による研究を重点的に行っていく。 並行して、今年度に4回行った研究発表で議論した内容と、その後に得られたフィードバックをもとに論文の執筆を進め、雑誌論文等の媒体で公表することを目指す(各発表につき、掲載媒体は決定している)。また、個別の事例研究も継続的に進め、その成果を随時、学会や刊行物等において発表していく。以上の研究を通して、フィリップ善良公の治世を中心とした15世紀ブルゴーニュ宮廷美術における「ブルゴーニュ・ブランド」の特性と「ブルゴーニュ公国像」についての考察をまとめたい。
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Causes of Carryover |
本研究課題を推進するためには、ベルギー、フランス、スペイン等に出張し、調査の進展に合わせて作品調査および文献・写真資料の購入を行う必要がある。しかし、今年度もCOVID-19の世界的な流行が完全にはおさまらず、出張を延期せざるを得なかった。次年度は、現地での調査を遂行する可能性を探りつつ、遠隔で手配することが可能な文献・写真資料を確保し、国内で実施可能な作品分析も進めていく。
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