2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00189
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴木 幸人 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (30374169)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 奉納絵馬 / 絵馬堂 / 武将図絵馬 / 物語図絵馬 / 北前船 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、「奉納絵馬」調査計画の初年度として、実地調査(おもに北海道内留萌方面と北陸金沢方面)と図録等からの画像収集、それらの分析考察を行った。 実地調査先としては、まず、北海道内の留萌市礼受厳島神社、苫前町苫前神社、石狩市石狩弁天社等、において、伝来の武者図絵馬等、の実地調査、画像データ収集、関係者聞き取りを行った。いずれも19世紀前半制作の武者絵の絵馬が伝来しており、優れた作域を示す作例として看過できないものであることが判明した。 また関連地域として北陸金沢市周辺の「物語図大絵馬」の調査も行った。これは絵馬研究一般において重要な作例であり、道内絵馬の画題や作者、伝来等の分析にも関わると考えられるので、集中的に9月と11月に現地調査、画像データ収集、関係者聞き取りを行った。調査神社は、金沢市崇禅寺、大野湊神社、粟崎八幡神社、石浦神社、淺野神社、湯涌薬師堂、小松市安宅住吉神社、能美市福島町日吉神社他で実地調査を行った。 その他、奉納絵馬の奉納伝来状況調査のために、他地域の京都貴船神社、奈良今井堂天神社、般若寺、敦賀気比神宮、東京浅草寺等でも画像データ収集、聞き取り等の調査を行った。 一方で、文献資料調査として、既存の報告書、展覧会図録などを収集し、それらから図像データ収集を進めたほか、名所図会などから奉納絵馬、とくに絵馬堂や奉納の図像に関する情報収集を進めた。 なお、当該研究に関わる論考として、「「晋の予譲の例を引き」―予譲の説話と絵馬をめぐって」(北大文学研究院ライブラリ『かなしむ人間 』、北大出版会、2019年刊行所収)を執筆し、北海道所縁の画師による著名な奉納絵馬の画題と奉納にまつわるエピソード等について論じることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
奉納絵馬作品の実地調査については、今回もっとも主要な調査方法と位置付けているが、関係者のご協力もあって当初予定の神社等での実見調査がおおよそ行えている。道内の所蔵神社では、とくに礼受神社、苫前神社については、実見調査により、その武者絵の絵馬、いずれもが貴重なすぐれた作例であることが判明した。画題、作者、奉納者といった個別作品の基本情報はおおよそ把握できているので、その他周辺の神社の未見の資料、同作者や奉納者による他の地域との関係についても分析考察を進めたい。 また金沢周辺に伝来する「物語図大絵馬」については、本研究課題の一方のきっかけとなったものであり、地域性や独自の性格も持つきわめて興味深い作品群であって、絵馬史研究全体の中でも看過できないものであると考えられる。未だ詳細までは不明ながら北前船等の往来による地域間のつながりも予測されることから、その画題や奉納者等は北海道内の奉納絵馬とも関連が予測されるものである。今回、集中的に実地調査を行うことができ、関係者への聞き取り調査や、平家物語や歌舞伎芝居等を画題にした大絵馬の画像データを収集できたので、その分析考察を進めている。 なお実地調査については、道南地方の函館方面および小樽方面の神社に関しては、事情により調査準備計画が少々遅れてしまっている。すでに予備的調査は終えているので、次年度以降の本格調査に向けての準備を進めるべく関係者と調整中である。(ただし今般の事情により各方面への現地調査には滞りが生じることも予想される。)
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方向としては、まずは、前年度の収集の北海道内および金沢周辺の画像データ等の分析考察を進める。とくに画題の解読分析に重点を置いて考察を進めることとしたい。収取した画像データの画題には、源義経、源頼朝等の平家物語、源平盛衰記の武将像、および神功皇后の説話に関わる画題が認められることから、それらの系譜に当該の奉納絵馬を位置付けることを試みたいと考えているところである。 つづいては、北海道内所在の奉納絵馬の実地調査、データ収集をさらに進めることとする。今年度(2020年)は、とくに小樽市の龍徳寺の奉納絵馬群について、すでに予備調査は行っているので、本格的な調査および写真撮影などを計画して、関係者との協力も得ながら、同寺伝来絵馬のリスト(総目録)を作成できるように努めることとしたい。その他、道東方面、道南方面の調査対象の神社寺院において実地調査を行い、道内所在奉納絵馬のデータ化をめざす足がかりとする。 このように、これからも引き続いて、北海道内および関係地域の現地調査を進めたいが、今般の事情のために、それが不可能な場合も想定される事態となっているので、現地調査計画を立てつつも、ひとまず、すでに収集済みの画像データによる分析、またさらに図録文献類からの画像データ収集にも取り組んでおきたい。その場合は、個別作品の画題等による展開、作者のつながり、奉納者の関係性等に注目しつつ分析を進める。また金沢周辺の物語図大絵馬の特質や独自性についての紹介を試みたいと考えている。
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