2019 Fiscal Year Research-status Report
江戸時代の東北画家における地域と階層に由来するアイデンティティの基礎的調査研究
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19K00190
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
杉本 欣久 東北大学, 文学研究科, 准教授 (80463446)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 東北の画家 / 狩野派 / 文人画家 / 御用絵師 / 画人伝 |
Outline of Annual Research Achievements |
1年目にあたる平成31年度(令和元年度)は、すでに各地域の県史や市史33種からピックアップ作業を完了していた江戸中後期の東北画家のなかから、本研究で取り上げるべき重要な人物を半数ほど抽出する作業を行った。その過程において、まずは江戸時代の人名録や画人伝の基礎資料を調査した。それは歴史上、その時代、その地域の文化を担ったと称するに値するかどうか、それぞれの重要度を確認するための下準備である。結果として調査を継続する画家を50名ほどに絞り、さらに彼らに関係する文献の残存状況を探るべく、東北6県に散財する県立や市立図書館の蔵書目録を調査し、伝記資料のピックアップ作業を行った。 以上の作業で得た成果に関する大きな意義として挙げられるのは、これまでほとんどその名さえ知らず、現在の美術史では扱われない多くの画家の活躍状況のおよそを把握できたという点である。江戸時代に隆盛した絵画には文化としてどのような意義を有したのか、その総体を概観するためには、これまでの研究の中心で取り上げられてきた画家を語るだけでは不十分であり、特に東北の画家については多くが江戸や上方と関係を有したにもかかわらず、一地方で活躍し、その文化的影響力もほとんどなかったとみなされている状況が存在する。それゆえ、研究として言及されることも少ないが、現時点で上記のような関係性が明らかになってきたことに加え、残り2年でその具体的状況をあぶり出せば、現在の観念を大きく変えるほどの、これまでとは別の江戸時代後期における絵画観が構築できるとの確信を得ることができた。 2年目は上記で抽出した画家に対し、伝記に関する本格的なデータベース作成を開始し、それに組み込むべき資料の調査を東北6県の図書館に足を運びつつ、収集する計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の1年目は、まず(1)「コンピューター入力による基礎データベースの構築」として、すでに各地域の県史や市史33種からピックアップ作業を完了している江戸中後期の主要な東北画家100名ほどについて、近世絵画史研究の基本となる江戸時代の人名録や画人伝の基礎資料を調査し、関係する記述を抽出することを掲げた。これに関し、当初の予定よりも2割増し程度を進めることができた。具体的には、計画からさらに50名ほどの画家に焦点を絞る段階まで到達し、最終的には図録を兼ねた伝記資料集を作成する構想をより具体化することが可能となった。 次に(2)「藩関係文書の把握」として、東北6県に散在する県立図書館や藩の政庁が所在した市立の図書館、資料館の目録を調査し、画家にゆかりのある藩伝来の関係文書について所在確認を行うことを掲げた。おおむねその目録の確認作業が終わり、資料の抽出作業も順調に進んでいる。これにより、2年目で調査に赴くべき所蔵館を絞り込むことができた。 最後に(3)「版本や書写資料の調査および複写」として、画家と交流のあった学者の漢詩文集や随筆を、東北大学図書館や東京の国立公文書館および国文学研究資料館などを訪れて調査し、重要資料について複写や写真撮影を行うことを掲げた。これまで収集した資料についてはその確認作業を進めているものの、新たな資料を確認して複写する段階にはいまだいたっておらず、特に2年目における最大の課題として遂行していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目における研究課題とした(1)「コンピューター入力による基礎データベースの構築」、(2)「藩関係文書の把握」、(3)「版本や書写資料の調査および複写」の3本柱に関して、継続、発展させることを意図しつつ推進していく。 まず(1)については、3年目に行う成果物の出版にとって必須の作業となるため、それを踏まえて充実を図っていく。 (2)と(3)については、2年目はますます重要性が高くなるため、1年目よりもさらに作業量を増やして行わなければならない。具体的には、(2)は目録によって所在を確認した東北6県の図書館や資料館所蔵の関係文書について、実際に現地を訪れて調査したうえで、重要資料については複写や写真撮影を行う。それとともに地方に散在する画家の菩提寺を調査し、墓跡が残っている場合には撮影を行い、それを資料化していく。(3)は、上記にもあるように当初に計画したような充実した調査を1年目では行なえなかったため、より効率化をはかる必要がある。そのため、むしろ(2)を重点的に推進したうえで、その成果を踏まえつつ(3)の調査を行うべきと考える。 以上で得られた資料については、これまで集積し、構築したデータベースに追加して組み込み、継続して入力整理作業を行う必要があるが、これは3年目に成果物を出版するうでは、2年目のうちに済ませるべき課題となる。
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Causes of Carryover |
1年目に関しては、調査の下準備として必要資料図書を購入したため、比較的細かい支出が多かった。2年目(次年度)もこれを継続して行うため、引き続き図書の購入に使用する計画である。 また、2年目(次年度)の研究としてウェイトが高くなるのは、東北6県にある図書館や博物館などを実際に訪れ、文献や文書などの実資料を調査ことである。そのため、全体の割合としては交通費の支出が多くなる。
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Research Products
(1 results)