2020 Fiscal Year Research-status Report
江戸時代の東北画家における地域と階層に由来するアイデンティティの基礎的調査研究
Project/Area Number |
19K00190
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
杉本 欣久 東北大学, 文学研究科, 准教授 (80463446)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 東北の画家 / 狩野派 / 文人画家 / 御用絵師 / 画家の系譜 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目にあたる令和2年度は、まず前年度に作業を完了した江戸中後期の東北画家データーベースのなかから、3年目に発行する報告書に取り上げるべき人物を、その重要度に基づいて選定した。地域については、藩における画家の重要度や資料の残存状況に基づき、盛岡藩、一関藩、仙台藩、弘前藩、秋田藩、本荘藩、庄内藩、上山藩、米沢藩、会津藩、白河藩の11箇所に絞ることとなった。それぞれ各藩から1から5名を取り上げ、さらに合計30名あまりの画家について資料の収集を進めることとした。 画家のラインナップは以下のとおりである。 弘前藩(鵜川常雲・新井寒竹・建部凌岱)、秋田藩(狩野秀水・渡辺洞昌・菅原宗岷・佐々木原善)、本荘藩(増田九木・牧野永昌)、庄内藩(石井子竜)、上山藩(丸野清耕)、米沢藩(目賀多守如・目賀多守息・目賀多守賢・目賀多信済・左近司惟春)、盛岡藩(田鎖鶴立斎・本堂蘭室・八重樫豊沢)、一関藩(大原呑響・小野寺東鵞)、仙台藩(松原探梁・東東洋・伊藤東駿・小池曲江)、会津藩(加藤遠沢・竹内澤与・永峰伊水)、白河藩(星野文良・白雲・竹沢養渓・大野文泉・安田田騏) 前年度に行っていた県立や市立図書館の蔵書目録の調査、伝記資料のピックアップ作業に基づき、実際に青森県立図書館、弘前市立弘前図書館、岩手県立図書館、一関市立花泉図書館、宮城県図書館、山形県立図書館、上山市立図書館、米沢市立米沢図書館、会津若松市立会津図書館を訪れて資料の撮影またはコピーを行い、報告書に掲載すべき材料を収集した。 その資料を解読、翻刻、データの打ち込み作業を同時に行い、伝記に関するデータベースの作成を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の2年目は、(1)「1年目における研究の継続」として、まずは「藩関係文書の把握」と手近な東北大学附属図書館が所蔵する狩野文庫を中心に「版本や書写資料の調査および複写」を行なった。さらに(2)「藩関係文書の調査および複写」で示したように、目録によって所在を確認した東北6県の図書館や資料館所蔵の関係文書について、実際に当地を訪れて調査、および複写、写真撮影を行った。 また、(3)「菩提寺の調査および撮影」に関しては、コロナの感染状況が芳しくなかった東京や関西では十分に行うことができなかったものの、岩手県一関市、山形県上山市、宮城県仙台市、塩竈市を中心に画家に関係する墓石を確認し、そこに刻まれた墓碑銘など調査、撮影を行なった。 最後に(4)「データベースの追加・整理」は3年目に発行する報告書の作成に向け、これまで集積した調査結果について、1年目に構築したデータベースに追加して組み込み、継続して入力整理作業を行った。この点に関してはアルバイトの協力を得ようと考えていたものの、新型コロナ感染拡大のなかにあって断念せざるを得なかった。ただし、自身で進めた結果として、現段階においてすでに掲載用の体裁も整いつつある状況に至ることができ、当初の予定を順調にこなしているということができる。また、調査に関しても、感染の比較的少なかった東北という地域を選んだ点が功を奏し、おおむね予定どおり、順調に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目における研究課題とした(2)「藩関係文書の調査および複写」、(3)「菩提寺の調査および撮影」、(4)「データベースの追加・整理」の3本柱に関して、継続、発展させることを意図しつつ推進していくとともに、いまだ資料の収集ができていない本庄藩と庄内藩については、早期に秋田県や山形県の同地にある図書館を訪れ、調査を行う予定である。 2年目において、(2)についてはまずまずの達成率であったものの、(3)は新型コロナ感染拡大が災いし、都市部への出張が困難であったため、十分に調査することが叶わなかった。3年目は、この点に関して(2)以上に重点的に行なっていく必要がある。 3年目において研究課題としているのは、まず1年目と2年目で確認に及ばなかった資料を調査する(1)「未確認資料の調査」である。この点に関しては先行研究を確認しつつ、取りこぼしをおさえていく予定である。次にこれまでに集積した資料を整理しつつ、地域や階層に育まれた感性や嗜好などのアイデンティティを画家ごとに分析解明するための(2)「データベースの整理・分析・解明および「伝記資料集成」と「画家略伝」の作成」、そして図書館や博物館、美術史研究者への配布を意図した(3)「研究成果発表用出版物の作成」である。(2)は(3)の原稿作成には欠かせない作業となっている。 これまでの研究および3年目の(1)と(2)いずれも、(3)として結実させるための過程であったため、最終的にここに集約させるべく、日頃の業務と報告書の作成の時間配分を考えつつ、有意義な内容とするために作業を遂行していく予定である。
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Causes of Carryover |
2年目に関しては、1年目で不足した必要資料図書を購入し、さらにコロナ禍で訪れることのできなかった東京の図書館や資料館に関しては複写を取り寄せたぶんの支出が多かった。3年目(次年度)も引き続き、同様の支出が予想されるほか、報告書の作成が入ってくるため、印刷製本費が支出の大きな割合を占めることになると予想される。
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