2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00196
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
山上 紀子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 研究員 (40805529)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | オディロン・ルドン / 西洋美術史 / フランス / ゴブラン / 装飾 / 花 / サロン批評 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、オディロン・ルドンの多分野にわたる活動のうち、(1)ゴブラン織りの下絵、(2)美術批評、(3)二重の外観をもつ素描作品、のおもに3つに関して研究活動を行った。(1)は従来、ルドン晩年における社会認知を象徴する作品と捉えられてきた作品だが、以前フランスで行った現地調査の結果と、今回新たにフランス国立美術史研究所とフランス国立図書館で行った調査結果をもとに、この作品に描かれた「花」の造形表現の起源に関して得られた新知見を発表した(論文「花はどこから来たのか-ゴブラン織り下絵に現れるルドンの植物相-」『都市文化研究』第22号)。(2)に関しては、ルドンが1868年5月19日から8月2日のあいだに4回にわたって『ラ・ジロンド』紙に発表したサロン批評のうち前半に相当する2回分を翻訳し、解題をつけた(投稿済)。造形活動のかたわら幅広く行われたルドンの文筆活動の成果は大部分がすでに出版されており、一部は日本語訳もあるのだが、断片的な文章を年代考察に無頓着な状態で編纂されたものが多く、資料として扱う際には注意を要する。そのなかで1868年のサロン批評は、年代が確かで公的な性格をもつ資料となる。この批評のうち、ルドンがマネの《エミール・ゾラの肖像》を論じた部分をもとに、ルドンの肖像画観をまとめ、大阪市立大学文学研究科の研究会で口頭発表を行った。(3)の図像の起源に関しては、1883年頃にフランスで目にすることができた、日本のものを含む美術作品に加えて、とくにアフリカで行われた戦争、フランス国内における死刑廃止論、奴隷制、植民地政策に関する新聞や雑誌の報道を中心に、オルセー美術館、フランス国立美術史研究所、フランス国立図書館で調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、オディロン・ルドンの美術作品に描かれた図像ならびに物質的側面にもかかわる表象行為のあらゆる痕跡を徹底的な観察と史料を用いて分析し、その多義性の要因と意義を探ることにある。当該年度に行った(1)の研究は、この作品について見過ごされてきた造形的特徴のなかに、19世紀ヨーロッパに生じた社会現象の描写を読み取り、同時代のフランス人に共有されていた世界観、歴史観の複雑なありようを示した。また、(2)の文献研究では、ルドン作品の特徴である非決定的な態度や複雑な外観の形成過程を、同時代の美術に対するルドンの批評を通じて実証的に検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の初年度となる当該年度に(1)の課題を完了できたので、次年度は(2)の翻訳を完成させた後、この史料を用いた論文の執筆と口頭発表を研究活動の中心に据える。新型コロナウィルスの感染拡大状況が収束したら、(3)に関する海外調査、国内調査を本格化させる。
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Causes of Carryover |
予定していた国内出張を取りやめた。また、校閲者が謝金の受け取りを辞退された。次年度、この分をノートパソコン購入費に活用したい。
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