2019 Fiscal Year Research-status Report
ユダヤ美術の生成・発展をめぐる研究――移動・越境する共同体の視覚文化――
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19K00199
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
加藤 磨珠枝 立教大学, 文学部, 教授 (40422521)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ユダヤ教美術 / キリスト教美術 / 西洋古代末期 / 西洋中世初期 / 考古学 / ローマ / シナゴーグ |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、研究の初年度に当たるため基本文献の収集、精読を進めると同時に、9月にはスペインのトレドおよびイタリアのローマを中心に現地調査を実施した。古代末期のトレドは紀元400年に教会会議が開催され、その後、西ゴート王国の首都(560-711)が置かれた重要都市であるが、遅くとも6世紀にはユダヤ人が定住し、早くからキリスト教、ユダヤ教、やや遅れてイスラーム文化が交錯した地である。そのユダヤ人旧居住区には町の現存最古のシナゴーグ(1180年頃建立、現サンタ・マリア・ブランカ聖堂)をはじめ、彼らの痕跡が数多く残ることから、シナゴーグ内のストゥッコ装飾をはじめ、都市計画の視点から彼らの異文化との融合の実態を調査した。 また、ローマではユダヤ教徒のカタコンベの代表作の一つであるヴィーニャ・ランダニーニ(Le Catacombe ebraiche di Vigna Randanini)を特別許可のもとで見学した。3~4世紀に発展した彼らのカタコンベ構造は、通廊、アルコソリウム(アーチ型壁龕)、ロクルス(墓穴)など初期キリスト教徒たちのものと多くの共通点が認められるが、ここでは「コキーム」と呼ばれる竈型の特殊な形態の墓も多数実見できた。 カタコンベ内の絵画については、当時の異教およびキリスト教美術に共通の花綱飾り、孔雀、小鳥、幾何学文様などが観察されると同時に、彼ら独自のメノラー(七枝の燭台)、トーラ(律法の書)を納めた聖壇、エトログ(柑橘)、ルラブ(棕櫚の葉)、神殿モチーフなどユダヤ教信仰を象徴する図像資料も多数実見しデータの収集を行った。 これらの現地調査および文献調査をもとに、本年度は古代末期のユダヤ人およびキリスト教徒共同体の女性聖職者の発展について当時のローマ社会における両者の状況を考察し、論文を執筆した(詳細は、10.研究発表「雑誌論文」の項目を参照のこと)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度に予定していたスペインおよびイタリアのユダヤ系モニュメントの調査は、各機関の協力によって無事に終えることできた。また、収集した資料を利用しつつ学術誌への論文投稿も済ませ、一定の成果を上げることができた。当初計画に記した当時の主要作品(現存作および資料によって伝えられるもの)の美術史的考察、ユダヤ美術の生成・発展の過程を検証する作業は継続的に進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年3月に予定していたアメリカ合衆国での調査が、新型コロナ禍の影響で延期となった。5月現在において、申請者が在住する東京都では外出自粛要請が続いており、本研究の研究施設である立教大学個人研究室への入構制限もなされている。また、この感染症に係る入国制限措置はアメリカおよびEU諸国でも継続中のため、今後の海外実地調査については見通しがたっていない。 今後は自宅の書斎においてできる限り関連文献の精読と分析を進め、前年度に収集した資料の整理などできる範囲で研究を推進する予定である。現在の自粛環境が緩和され次第、当初の予定通り、アメリカさらにイタリアでの研究調査を再開する予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度末に予定していたアメリカ合衆国での調査が、新型コロナ禍の影響による外務省の水際対策強化に係る措置として出入国管理対象となったために実施できず、次年度使用額が生じた。2020年度に現地調査の費用として使用する予定である。
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