2020 Fiscal Year Research-status Report
中世イタリアの宗教画における周縁と境界:画像と観者を結ぶ媒介機能に着目して
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19K00205
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
松原 知生 西南学院大学, 国際文化学部, 教授 (20412546)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ドゥッチョ / チマブーエ / ジョット / シエナ / フィレンツェ / 中世美術 / イタリア絵画 / 聖母崇拝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、13世紀後半から14世紀初頭にかけて頻繁に制作された「玉座の聖母子」の大型板絵のうち、代表的な3作品をとり上げ、その視覚的構造と図像的意味、および観者への関与性について考察を行なった。具体的な内容は以下の通りである。 (1)ドゥッチョ作《ルチェッライの聖母》(1285年)の元来の設置状況に関する従来の研究史をふり返って整理するとともに、聖母マリアが身につけるマントの衣襞の縁と靴のつま先の描写、およびそれと組み合わされた玉座の脚乗せ台の立体表現を分析することにより、本図が礼拝空間において信者たちの視覚のみならず触覚をも強く刺激していた可能性について検討した。 (2)チマブーエ作《サンタ・トリ ニタの聖母》(1295年頃)には、玉座の基台部に3つのアーチが大きく開き、そこに4人の旧約の預言者が居並ぶという、従来にはない奇抜な表現が見出される。このモチーフを、マントが開かれて露わになった聖母マリアの腹部というやはり例外的な図像、および預言者たちが手にする巻物の銘文の内容と関連づけて考察することで、本図がイエスの受肉の場となったマリアの母胎の「開かれ」を主題化していることを明らかにした。 (3)ジョット作《オンニッサンティの聖母》(1310年頃)を、同じ聖堂のために制作された他のジョット作品と結びつけて分析することで、本図もまた受肉の場としてのマリアの母胎への接近可能性を視覚化している可能性を指摘した。また、玉座の基台部と舗床が3段の階層構造を有していることに着目、貝の化石が埋まった白大理石製の最下段の床が「死」の領域を、聖者たちが居並ぶ最上段が永遠の「生」およびイデア的な「形相」の領域をそれぞれ形成し、その中間に位置する不定形の斑入り色大理石製の突出部分が、「死」から「再生」へと至る移行空間にして、いまだ「形相」をもたぬ純粋な「質料」の領域をなしているという仮説を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症のため、予定していたイタリアでの現地調査は残念ながら実施できなかったが、参考文献および画像資料に基づいた基礎研究は予想以上に進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は過年度の研究成果のうち未刊行分を活字化して公表する(前年度に考察したマッダレーナ礼拝堂についての論文を目下執筆中である)とともに、14世紀前半のシエナ絵画について分析を進める。その際、当初の研究計画調書に記したシエナの大聖堂や市庁舎の祭壇画・壁画のみならず、シモーネ・マルティーニやピエトロ・ロレンツェッティが活動初期に手がけたアッシジのサン・フランチェスコ聖堂下院のフレスコ連作についても考慮する必要のあることが、前年度の研究により判明したため、これらも研究対象に含めて考察の幅を広げたい。次年度は最終年度となるが、新型コロナウイルスの感染状況により海外での調査が実施できない場合は、補助事業期間の延長手続きを行なう可能性がある。
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Causes of Carryover |
本年度は海外での2週間程度の作品調査を予定していたが、前年度と同様、新型コロナウィルス感染症の流行により中止せざるを得ず、旅費が予定通り使用できなかったため、次年度使用額として繰り越されることとなった。最終年度である次年度も同感染症の流行により調査が十分にできない場合は、補助事業期間の延長手続きも視野に入れる。
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Research Products
(2 results)