2021 Fiscal Year Research-status Report
中世イタリアの宗教画における周縁と境界:画像と観者を結ぶ媒介機能に着目して
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19K00205
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
松原 知生 西南学院大学, 国際文化学部, 教授 (20412546)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジョット / アッシジ / サン・フランチェスコ聖堂 / フランチェスコ会 / マグダラのマリア / マッダレーナ礼拝堂 / イタリア美術 / 中世絵画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、2019年度に実施したジョットの礼拝堂装飾研究を継続し、ジョット工房がアッシジのサン・フランチェスコ聖堂下院マッダレーナ礼拝堂に描いたマグダラのマリア伝について、観者に近い低い位置に描かれた注文主テオバルド・ポンターノの二重肖像に着目しながら分析を行なった。 右壁面では、跪いてマグダラのマリアの手に触れるポンターノの上方に《ノリ・メ・タンゲレ(我に触れるな)》と《天使によって天へと揚げられるマグダラのマリア》が描かれている。このような三段階による天への上昇プロセスは、フランチェスコ会神学を代表する聖ボナヴェントゥーラの神秘主義的著作(とりわけ『三様の道』と『魂の神への道程』)に認められる、新プラトン主義的な神との合一化の過程と重なり合うものであり、右壁面では私的な祈りに没頭する修道士としての「観想的生(vita contemplativa)」が主題化されていることが分かる。 これに対し左壁面では、アッシジの初代司教ルフィヌスに頭部を触れられるポンターノの上方に、《パリサイ人の家での回心》や《マグダラのマリアの最後の聖体拝領》など、告解や聖体の秘跡を連想させる場面が位置づけられている。ポンターノがフランチェスコ会修道士であると同時にアッシジ司教でもあり、司牧に従事する立場であったことを考えると、左壁面では、公的な秘跡を信者たちに奨励する司教としての「行動的生(vita activa)」が図像化されていると言える。 このように、左右両壁面において「観想的生」と「行動的生」がそれぞれテーマ化された背景には、いずれかの生き方を偏重することなく、双方のバランスをとる「混合的生(vita mixta)」という第三の生き方を注文主ポンターノが重視したためであると考えられる。のみならず、二重肖像を通じて観者をもその生き方へと誘導しようとしている点に、本作品の特異性が求められよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過年度に続き今年度も、新型コロナウイルス感染症の流行のため、予定していたイタリアでの現地調査は残念ながら実施できなかったが、参考文献および画像資料に基づいた基礎研究はほぼ予定通り進展した。とりわけ、2019年度に行なったジョットによるアレーナ礼拝堂装飾の図像分析との比較と関連づけは、先行研究においては十分になされていなかったこともあり、意義深い成果であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題を延長した2022年度は、アッシジ下院におけるもうひとつのフレスコ連作であるサン・ニコラ礼拝堂について、その埋葬礼拝堂としての建造プロセス、およびそこに設置された他のメディウムによる作品群(ステンドグラスや墓碑彫刻など)との関連を踏まえながら、その媒介機能について考察し、成果を論文として発表する予定。また、コロナ禍のため過年度に叶わなかったヨーロッパでの作品調査をぜひとも実施したい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により海外での作品調査が不可能であったため。次年度は欧米への調査旅行を実施する予定。
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Research Products
(1 results)