2021 Fiscal Year Research-status Report
Early 17th century Roman religious paintings and ordinary people
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19K00206
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
浦上 雅司 福岡大学, 人文学部, 教授 (60185080)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 17世紀ローマ美術 / 近世美術と市場 / 画家と購買層 / 庶民と美術 / ローマ美術界 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和二年度に続いて令和三年度もコロナ禍のため、海外はもちろん、国内でも移動が制限された。これは本研究計画の実行にも大きく影響した。当初計画に盛り込んでいたローマの諸聖堂における作品調査やヴァチカン図書館における文献調査は行えず、東京などへの出張も大学から厳しく制約され、福岡に閉じこもることを余儀なくされたのである。このため、令和三年度の本研究調査ももっぱら福岡で入手可能な文献資料を元に実行された。 一昨年、令和二年度も文献資料に基づく調査だったが、この時は17世紀ローマで活動した宗教組織「兄弟団(Confraterita)」の活動と庶民の関わりに注目し、庶民と宗教美術の関わりについて考察した。 令和三年度、特に力を入れて調査したのは、この時期の「聖年」行事や諸聖堂の祭礼における庶民の関与のあり方だった。 特に1575年の聖年についてはR. Rialioによる記録(1580年出版)があり、また1600年の大聖年についてはAgostino Valierによる記録(1601年出版)がある。これら基本文献に加えて二次的研究資料を調査し、聖年はローマを訪れる巡礼たちにとってのみならず、ローマ庶民にとってもさまざまな宗教美術に触れる貴重な機会だったことが再確認された。 1599年、ローマのサンタ・チェチリア・イン・トラステーヴェレ聖堂で、聖女チェチリアの遺骸が発見された折の記録も入手できたが、この記録にも、ニュースを聞いた庶民が同聖堂につめかけた様子が記述されており、当該時期のローマにおける庶民が特に宗教美術とさまざまに関わっていた様子が確認できた。この時期のローマ庶民は決して美術に関して無関係な存在ではなかったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、本研究の実行期間は令和元年度から令和三年度にかけての三年間だったが、コロナ禍のため、令和二年度に続いて令和三年度も、海外旅行はもちろん、国内での移動もほとんど不可能であった。二年連続で大学の授業が遠隔となっただけでなく、学会も軒並み遠隔開催となったが、この状況は本研究の推進にも影響を及ぼした。ローマの聖堂や図書館を訪問して実地で調査することはもちろん、国内旅行も困難となり、研究は福岡で入手可能な文献によって進めざるを得なかったのである。 幸いなことに、インターネットで公開されている当該時期の文献はあり、また、研究論文についてはJSTORなどネット上のデータベースを活用して入手することもできたが、研究は当該時期の美術と庶民の関係について一般的な状況を幅広く調査し、考察することが中心となり、具体的な事例について踏み込むことはできなかったのは残念だった。 このような制約がある中、1675年および1600年の大聖年におけるローマの宗教文化活動の有様やそれに対するローマ庶民の関与のあり方について、入手可能な限りの文献によって知見を深めることができたのは、それなりの成果となったと言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は当初、令和三年度で終了する予定だったが、コロナ禍で当初予定していたローマでの調査ができず、令和四年度まで研究期間が伸びることになった。 令和四年度、海外渡航が可能になれば、当初予定していた通り、当該時期の庶民と宗教美術の関係について興味深い事例となるサンティッシマ・トリニタ聖堂での調査を行う予定である。この聖堂は聖年時の巡礼接待で大きな役割を果たしたサンティッシマ・トリニタ兄弟会の拠点だが、この兄弟団にはローマの貴族や富裕階級だけでなく、貧困層は別にして、一般の庶民も積極的に参加し、貢献していた。当該時期のローマ庶民と宗教美術の関わりについてさまざまな知見を獲得できる可能性は大きい。 この調査ができなければ、令和三年度に力を入れて文献によって調査してきた、1575年および1600年の聖年におけるローマの文化行事におけるローマ庶民の果たした役割を検討し、17世紀ローマにおける庶民と宗教美術の関係を示す事例研究としてまとめたい。
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Causes of Carryover |
本研究では当初、毎年、ローマに赴いて現地調査をする予定だったが、コロナ禍によって令和二年度および令和三年度は実施できず、次年度使用額が生じることとなった。コロナによる移動制限が緩和されつつある令和四年度の予算は、調査旅行や文献資料の入手、データベースの利用などに活用したいと考えている。
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