2020 Fiscal Year Research-status Report
金属製幡の基礎的研究-特に密教における灌頂道具としての用途と機能
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19K00207
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Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
伊藤 信二 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸企画部, 課長 (00443622)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 金属製幡 / 玉幡 / 金銅幡 / 灌頂道具 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は前年度に続き、本研究対象となっている金属製幡、およびそれを含む密教の灌頂道具について、過去に調査実績のある作品を中心とする実見調査、およびそのデータ整理を行うとともに、未実見の作品について情報を収集し調査を行った。 千葉・宝金剛寺所蔵の金属製幡2流3組(江戸時代)はかつて調査を行ったことのある作品であるが、同寺にはほかにも多数の仏教関係工芸品が伝来しており、中には金銅製の宝冠など、密教の灌頂道具として使用されたと思われるものがある。これら多数の作品を本格調査する前段階として同寺において事前調査を行い、灌頂幡2流3組、宝冠一対のほか、華鬘、幡、密教法具、銅鏡などの存在を確認することができた。また法金剛寺、地元教育委員会に対して本格調査への協力依頼を行った。 奈良・法隆寺に伝来する未調査の金属製幡2流について実見調査を行った。この作品は舎利殿内陣に貞治3年(1364)築造された宮殿の正面軒先左右に、近年まで一対で懸垂されていたもので、江戸時代17世紀の作と判断された。形制や文様意匠は、東京国立博物館蔵品や新潟・乙宝寺蔵品など室町時代一五世紀末~一六世紀前半の玉幡と近似しており、整美な造りや彫金から、江戸時代17世紀の作と判断された。東博幡や乙宝寺幡は灌頂道具として使用されたことが明らかである。法隆寺幡は堂内荘厳具として用いられてきたものであるが、あるいは灌頂道具として使用された可能性がないか、今後の検討課題とされた。 また個人蔵の金属製幡についての所在情報を得、展示出品中の作品を観覧するなど、関連の仏教工芸品調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は新型コロナウィルス感染症の拡大にともない、移動や人的な接触を極力避けることが求められたため、実見調査を目論見通りに行うことが困難な状況であった。 また令和2年12月、自身に病巣が発見され、令和3年1月から3月にかけて検査や入院手術などを行ったことも研究の遅延に大きくあずかっている。
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Strategy for Future Research Activity |
現状では実見調査が当初目論見より遅れている状況である。新型コロナウィルス感染防止という観点から、所蔵者の意向、感染防止に十分な対策が取れないと想定される場合など、予定通りの調査が実施できない可能性も考えられる。この点においては、所有者はじめ関係者と協議をしながら、感染防止対策を十分に講じた上で調査が実施できるように計らっていきたい。 また実見調査が叶わない状況となった場合でも、対象作品に関しての過去の調査報告や展覧会出品などの情報にあたり、作品のデータを取得することに努めたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の拡大にともない、移動や人的な接触を極力避けることが求められたため、実見調査を目論見通りに行うことが困難な状況であった。 また令和2年12月、自身に病巣が発見され、令和3年1月から3月にかけて検査や入院手術などを行ったことも進捗が遅れた理由である。 次年度は当初予定されていた実見調査を計画的に遂行することに努める。そのための調査出張旅費、作品の運搬や梱包などの役務費、データ整理、報告作成などに費用を充当する予定である。
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