2019 Fiscal Year Research-status Report
環南シナ海・インド洋海域が育む近世螺鈿の諸相と貝文化圏の構想―シェルロード
Project/Area Number |
19K00208
|
Research Institution | Mokichi Okada Art and Culture Foundation (Curatorial Department) |
Principal Investigator |
内田 篤呉 公益財団法人岡田茂吉美術文化財団(学芸部), 学芸部, 業務執行理事 (00426438)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 環シナ・インド洋海域 / ベトナム螺鈿 / タイ螺鈿 / 螺鈿文化圏 / シェルロード / インド・ポルトガル美術 / 螺鈿 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の2019年度は、研究計画に基づき、①博物館、美術館等所蔵の作品実見観察調査、②タイ文化省芸術局の許可を得て、チェンマイ漆樹植林地(漆樹、漆掻きの調査、漆掖の採集)のタイ産漆の調査を実施した。さらに2年度に予定していたベトナムにおける螺鈿作品の調査を前倒して実施した。
①日本の博物館・美術館所蔵の元・明時代の螺鈿作品調査は7月に高田知仁が実施した。本調査を通して、中国螺鈿とタイ螺鈿の技法的な相違が明確となった。 ②タイの調査は、チェンマイの漆樹林チュンポーンにおいて9/21-23にバンコク在住の高田知仁(タイ国サイアム大学タイ日本文化研究センター長)及びタイ文化省芸術局職員Kaewnapa、Supaporn ,Thanawatにより全く解明されていないタイ産漆の性質について分析化学するための漆掻きの現地調査、漆樹液の採取を実施した。特に漆掻きの実演をみることができたと共にタイの漆掻きの問題点も聞き取り調査する事が出来た。 ③ベトナムの調査は、研究代表者の内田篤呉、室瀬和美(重要無形文化財「蒔絵」保持者)、高田知仁が12/1-12/7ハノイ国立歴史博物館、国立美術博物館、フエ宮廷美術博物館、ホーチミン歴史博物館の作品調査を実施した。特にフエ宮廷美術館所蔵の丸花紋木地螺鈿ベッドは、1848年に当時の国王が命じた製作時期の判明する基準作が発見でき、さらに技法調査から本作品が元は黒漆塗螺鈿である新知見を得た。これは、基準作例のないベトナム螺鈿における重要な紀年銘作品の発見である。またベトナム螺鈿の特徴は木地螺鈿であるという通説を覆すものであった。今後、植民地時代の宗主国であるフランスにおけるベトナム螺鈿の調査の必要性も生じている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、タイのチェンマイ・チュンポーン(漆樹、漆掻きの調査、漆掖の採集)現地調査および日本国内の螺鈿漆器の調査であった。日本国内は高田知仁が本年7月に東京国立博物館、徳川美術館、林原美術館等の所蔵品調査を実施した。さらに2年度調査予定のベトナムの作品の調査を1年間の前倒しをして実施できた。さらにベトナムでは既述の新知見を得ることができた。ベトナム調査の結果、調査地域を旧宗主国であるフランス・パリのギメ美術館へと拡大の必要性も生まれてきている。2年度においては、3年度の調査をさらに前倒してフィールドをインドに広げ、グジャラートのラルバイ・ダルパトバイ博物館及びゴアのカラングーテ教会正面入口・精霊十字架台部の調査を通して「インド・ポルトガル美術」「コロマンデル」と呼ばれる漆工の作品調査と生産地の探査を実施する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の課題としては、南蛮交易の寄港地であるマラッカ、南蛮交易の終着地であるリスボン等の現地調査を検討したい。マレーシアではマラッカにおける現地調査、クアラルンプールのイスラム美術館は事前の現地調査から南蛮漆器が所蔵されていることが判明しているので、その作品調査を実施する。ポルトガルにおいても事前の現地調査でリスボン国立博物館の木画書見台、ポルトの国立博物館の丸紋木画小箪笥及びソアレスドスレイス国立博物館のインド・ポルトガル美術に関連する漆工芸、木工芸の所在を確認しているので、本調査においては実見の調査を実施したい。3年度以降は、西アジア・西欧諸国へと研究領域の拡大を図り、近世螺鈿の諸相と貝文化圏の生成プロセスの解明に取り組みたい。 初年度のベトナム調査において得た新知見はベトナムの美術館、博物館の研究者に周知したいので、フエの宮廷博物館と漆工史学会との共催で、シンポジウム開催の可能性を模索している。 尚、本研究において室瀬和美による技法調査は必須であるが、現在、世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっているため海外の調査に生命の危惧を感じている。特に人間国宝の生命は国家にとっても重大な課題であるため、2・3年度の調査については1年間の延期の検討をお願いしたい。
|
Causes of Carryover |
(理由)本年度は支出計画通りに予算を執行出来た。1万円ほどの差額は次年度にて執行する予定である。 (使用計画)インドのゴア・アフマダーバードの調査旅費(1.265.000円)/東京-インド航空料金(280.000)/宿泊・食卓料(165.000)インド国内移動費(50.000)×2名/バンコク-インド航空料金(60.000)宿泊・食卓料(165.000)インド国内移動費(50.000)×1名/日本国内調査旅費・東京・京都・沖縄(135.000円)
|