2021 Fiscal Year Research-status Report
藪明山の薩摩焼上絵付の技術革新と工房経営に関する研究
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19K00209
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Research Institution | Administrative Agency for Osaka City Museums |
Principal Investigator |
中野 朋子 地方独立行政法人大阪市博物館機構(大阪市立美術館、大阪市立自然史博物館、大阪市立東洋陶磁美術館、大阪, 大阪歴史博物館, 主任学芸員 (00300971)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 藪 明山 / 輸出工芸 / 薩摩焼 / 上絵付 / 技術革新 / 銅版 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、明治期の大阪で薩摩焼上絵付工房を経営した藪明山による「薩摩焼」の上絵付技術の改良・革新について探究し、世界を席巻した「SATSUMA」(薩摩 焼)製作工房のなかにあって、その卓越した絵付技術から近代日本の薩摩焼を代表する工芸家として世界で認識された藪明山(YABU MEIZAN)の果たした役割に ついて探究するとともに、同時期の工芸家と工房の在り方について、その実態を解明することを目指している。 研究の3年目は、2年目までに実施した研究成果を踏まえ、藪明山が欧米への販路拡大を図った明治20年代初頭における明山作品の輸出経路(方法)の開拓について調査を進め、京都・烏丸下長者町に屋敷を構えた平瀬與一郎という人物が明山作品の欧米への輸出に関わっていたことを明らかにした。平瀬が明山と同じく淡路島福良(現在の南あわじ市福良町)の出身であること、また明山と同じくキリスト教徒で、明山と同じアメリカン・ボード傘下の教会で活動し、宣教師たちと交流を重ねるなかで欧米、特にアメリカへの輸出経路を開拓していったことを突き止め、「藪明山と「精良薩摩陶器商 平瀬與一郎」」(『大阪歴史博物館研究紀要』 第20号(令和4年3月)所収)としてまとめた。 同時に、これまでの古文書調査とその研究によって明らかになった明山の作品製作に関わりを持つ人物に焦点を当てて調査を進め、その人物の子孫への聞き取り調査を実施できたことで今後の研究の進展に大いに益する結果を得た。 ただし、新型コロナウィルスの影響は大きく、藪明山が養子として継承した藪の本家について調査するため、行動制限が緩和された時期に兵庫県南あわじ市福良の調査に出向くことができたものの、その他の国内での作品調査は見送る結果となり、次年度に予定している調査等の準備を行うことができなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の3年目にあたり、明山作品の欧米への販売に関わる史料ならびに関連事項の調査を中心に研究を実施することとし、明山と同郷の淡路島福良の出身で、のちに京都へ移住し、貝類研究を手掛けた平瀬與一郎という人物と明山との関わりを明らかにすることで、平瀬の開拓した輸出ルートによって明山作品の輸出が手掛けられていたこと、平瀬も明山も時期はやや異なるものの京都・大阪を中心に布教がおこなわれたアメリカン・ボード傘下の教会で受洗しキリスト教徒となっていることが輸出ルートの開拓と関わりのある可能性などを指摘した論考を発表した。ほかに、明山工房での上絵付製作に関わりを持つ人物について、現存する古文書(藪家伝来文書)を手がかりに解明し、その子孫に聞き取り調査を実施することができたことは大きな収穫であった。また、藪明山が養子として継承した藪の本家について調査するため、行動制限が緩和された時期に兵庫県南あわじ市福良の調査に出向くことができた。 しかしながら度重なる新型コロナウイルス感染症にかかる緊急事態措置によって移動が制限されたことにともなって調査旅行の実施を見送らざるを得ず、研究2年目から持ち越していた国内の藪明山コレクションの作品調査については所蔵者の意向もあって困難であったこと、また、明山作品の下絵に使用されている銅版の顔料についての科学分析についても同様に実施の目処が立たなかったため、明山作品の上絵付に関する復元実験を行う準備については進めることができなかった。そのため、調査の方向性を模索、インターネット経由で資料調査が可能な“The British Newspaper Archive”において明山作品の現地における評価を探すなどの工夫を行って一定の成果は得たものの、調査研究全体としてはやや遅れる結果となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、新型コロナウイルス感染症が落ち着きを見せるまでの間は、研究代表者の所属機関で所蔵する藪明山工房の経営に関わる史料(藪家伝来文書)を再検討して明山工房の経営に関わる調査を深化させていくこととする。 その過程において、まず第一に、研究開始からの検討課題である明山工房で絵付に関わった人物についての探究を一層深化させることで、明山工房における雇用の在り方を把握していくとともに、可能な限り、藪明山作品の図様等のアーカイブと分析を推進する。第二に明山独自の「銅版」を使用した絵付技法の開発時期をより明確化させるための検討をすすめていく。その際に明山が「銅版」を購入した人物としてその名が挙がっている「若林長英」については、明山との接点が明確になっていないことから、ふたりの接点を解明することも明山工房の作品製作を解明する上では重要であるため、鋭意取り組んでいく。第三に明山工房で使用された「銅版」についての科学的分析・調査を進めるために、実験機関との調整をすすめ、明山作品の復元的な製作実験の実現に向けてのスケジュールを再構築していく予定である。 なお、藪明山のキリスト教信仰と欧米向け輸出ならびに同地での販売活動は密接に結びついていた可能性が指摘出来た(中野朋子「藪明山と「精良薩摩陶器商 平瀬與一郎」」)ことから、明山の入信以降のキリスト教者としての活動背景を探り、明山の展開した輸出戦略についても継続して調査研究に取り組んでいくこととする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症にかかる緊急事態措置によって調査旅行を延引せざるを得なくなったこと、また同じく新型コロナウイルス感染症の影響によって実験機関との連携が難しくなったことによって、予定されていた各種の調査ならびに研究の実施が困難となった。 そこで次年度には、3年間の研究内容を踏まえ、第一に藪明山作品のアーカイブを推進し、第二に昨年度見送った実験機関との連携の再構築をはかっていくことで研究の正常化を目指していく。
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Research Products
(1 results)