2021 Fiscal Year Research-status Report
環太平洋・間アジア視点から近代日本大衆音楽史を読み直す
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19K00220
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
輪島 裕介 大阪大学, 人文学研究科, 教授 (50609500)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 大衆音楽 / ディスコ / シティポップ / 在地音楽(vernacular music) / 大阪 / アニメソング |
Outline of Annual Research Achievements |
日本のディスコ音楽について、トランスナショナルな産業的文脈と、それが具体的な場で踊られるあり方について、それぞれ日本語論文集に寄稿した。それに基づく英文ブックチャプターをディスコ文化の国際比較を主題とする論文集に寄稿した。 東アジアの大衆文化と政治に関する重要な著作であるレオ・チン『反日』に共訳者として参加し、日本ポピュラー音楽学会でそれを主題としたワークショップを開催した。 また、地域研究の国際学会としてそれぞれ最も有力な組織である、ラテンアメリカ学会、アジア研究学会で、太平洋圏と大西洋圏の音楽的相互影響に関するパネル発表に参加した。前者では、1960年代のオフ・ビート・チャチャ(日本では「ドドンパ」とも呼ばれた)と呼ばれるラテン系ダンス音楽のアジア全域における流行とフィリピンの音楽家の媒介者としての重要性に注目し、後者では、1950年代半ばの日本におけるマンボ・ブームについて発表した。 加えて、新たな研究主題として、日本発の大衆音楽としてアジア地域を始め世界的に受容されているテレビアニメの音楽(いわゆる「アニソン」)についての研究に着手した。表象文化論学会大会シンポジウムに招待され、その初期における産業史的文脈に注目して発表した。 さらに、1920年代以降の大阪の音楽文化について、近代以前の町人文化と、近代的港湾都市の国際的な関係性の結合による「在地vernacular」性に着目して発表し、日本語論文を刊行した。 これらの事例研究を貫く理論的・歴史的視座について、近代日本における(外来の)「音楽」と(在来の)「歌舞音曲」の相克という観点から整理し、論文「音盤と身体:近代日本における音楽と歌舞音曲」を、日本の大衆文化に身体からアプローチする日本語論文集に寄稿し、その内容を発展させた発表を名古屋大学主催の国際シンポジウム「音/声の文化史」で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4年計画の3年目である今年度は、口頭発表、論文とも、質量ともに十分な成果を挙げられたと考えている。特に、国際的な展開と地域的な特殊性を併せ持つディスコ文化について、十分な研究成果を挙げられたことは、本研究にとって非常に有益であった。特に、世界各地の研究者の共著によるディスコ文化の国際比較の論文集Global Dance Cultures in the 1970s and 1980sに寄稿したことで、国外の主要な研究者との交流が深まり、今後の共同研究の可能性も期待される。 一方、当初予定していた事例研究のなかには、コロナ禍のため進められないものもあったが、アニメソングや、近代アジア都市としての大阪、といった新たな主題を発見することができ、さらにそれを、「在地音楽vernacular music」という観点から理論化する視座を獲得したことで、今回の研究課題全体を包括し、それをさらに大きな研究課題へと発展させる手がかりを得た。 コロナ禍のため、当初予定していたアジア圏の現地調査や研究者との交流は必ずしも進められなかったが、レオ・チン『反日』の訳書が刊行されたことで、今後の交流の広がりと議論の深まりが期待される。従来からのインターアジア・ポピュラー音楽グループや国際ポピュラー音楽学会のネットワークは、オンライン活動で活かされている。一方、国際学会のオンライン化の副産物として、ラテンアメリカ地域の研究者との交流が拡大された。本研究課題は太平洋圏を中心としているが、より多くのポピュラー音楽研究の蓄積をもつ大西洋圏との交流は、きわめて有意義である。 以上のように、最終年度に向けて、事例研究においても、より広く深い歴史的・理論的視座においても、十分な研究成果を挙げられたと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に記した3つの事例研究(1・1930年代から60年代までの日本の大衆歌謡のアジア太平洋圏での受容、2・1960年代に日本を拠点にアジア全域で活動した台湾出身の歌手・俳優、林沖の文化史研究、3・現在「シティポップ」と称される日本の1970年代から80年代の音楽の世界的受容)のうち、1については、2022年5月に韓国嘉泉大学校アジア文化研究所主催の演歌と韓国のトロットの交流を主軸とする国際シンポジウムで発表する予定である。さらに、2021年度開催予定が延期となった、国際ポピュラー音楽学会でも、トロットと演歌に関する国際パネルで発表する予定である。さらに、アニメソングという新たな研究主題を得たことで、1960年代以降現代までの日本大衆音楽の世界的受容について考察する可能性が拓けてきた。2については、台湾での調査が困難なため十分に進展していないが、林沖氏ご本人や関係者とは良好な関係を維持している。3については、「シティポップ」研究自体が日本内外で急速に進展するなか、「ディスコ」という独自の切り口を得たことで、単に最新の研究動向をフォローするだけでない独創的な議論が可能になると予想される。次年度はじめには、すでに脱稿した英語論文が収められた論文集が刊行される予定であり、国際的な反響が期待される。 さらに、これらの事例研究を統合し、世界的な越境性と特定の場における固有性をともに扱うことができる概念として「在地音楽vernacular music」という視点を得たことで、研究課題全体を理論的に包括する展望がみえてきた。 最終年度は、事例研究を引き続き進めるとともに、それらを統合する議論を提起することを目指す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため国際学会等の旅費の支出が予定より減ったために次年度に振りかえる。2022年度には、各種の国際学会も開催される見込みであり、その旅費として充当する。
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Research Products
(12 results)