2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00221
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
河添 達也 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (20273914)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 作曲 / 管弦楽法 / 楽曲分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代日本を代表する作曲家 湯浅譲二(1929-)と細川俊夫(1955-)の作品および音楽思考の研究を通して、彼らの日本伝統音楽受容の実態を明らかにし、さらに同時代の西洋人作曲家作品との比較分析を行うことで、日本人作曲家作品における伝統音楽受容の独創性を探ろうとする試みが、本研究の全体構想である。 なかでも、作品のオーケストレーション(管弦楽法)を作曲技法の観点から分析することに主軸を置き、音響化の具体的事象を明らかにする点にも特徴がある。 研究初年度は、湯浅および細川のオーケストラ作品上演機会に可能な限り参画するとともに、比較対象とした西洋人作曲家、M.JarrellおよびI.Fedeleにも対面によるインタビューを行い、順調に研究を進めていた。しかし、2020年度末以降、コロナ禍による演奏会の自粛要請等により、予定していた海外での事例研究や専門家の招聘等を見送らざるをえなくなったことから、これまでに入手した楽譜を研究素材とした、主に譜面上の楽曲分析研究へとその主眼を切り替えた。また、当初予定していた比較対象の西洋人作曲家のみならず、古典や近現代の作・編曲作品へも研究対象を広げ、演奏実践と分析を行った。 湯浅の体調不良もあり、今年度は特に細川の編曲作品(J.S.Bach”人よ汝の罪の大きさを嘆け”)に着目し、そのオーケストレーションを中心に演奏実践と楽曲分析研究を試みた。また細川自身へのメールインタビューを通して、細川編曲作品成立の経緯を確認した。これらの研究成果は、1編の論文および成果発表演奏会(筆者の指揮による「島根大学管弦楽団定期演奏会」)によって公表または公表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、湯浅譲二の「室内オーケストラのためのプロジェクション」と「おやすみなさい」の楽曲分析と演奏実践を行い、前者では冒頭の休符の扱いにおける日本伝統音楽の間(ま)との関連性や、オーケストレーション上の重層感、あるいは旋律線のフィギュアに注目して合奏指導法的視点から論じた。後者については、筆者が湯浅に委嘱した管弦楽伴奏版の世界初演を機に、その管弦楽法の特徴を、歌詞の描写性の推移と関連付けて論じた。さらに、古典や近代の西洋人作曲家の作品へも範囲を広げ、比較分析を行った。また、湯浅と武満徹の映画音楽や映像音楽に対する描写性の思考について、彼らの自著から整理し、シルベストリ作曲の映画音楽「フォレストガンプ組曲」の演奏実践を行って、物語性を伴う楽曲創作における比較研究を行った。これらの成果を「楽曲分析の手法を用いた合奏指導法試論Ⅱ」および「視覚と聴覚の関連性に着目した高等学校芸術科(音楽)における教材開発研究」の2編の論文にまとめ、『島根大学教育臨床総合研究』誌において2021年8月に公表した。 2021年度は、細川俊夫がJ.S.Bachのオルガン作品を弦楽四重奏用に編曲した作品「人よ汝の罪の大きさを嘆け」を取り上げ、弦楽合奏で演奏実践を行うとともに、オーケストレーションの視点から分析を試みた。また、細川本人へのメールインタビューを通して、作品成立の経緯に関する事実確認を行った。この成果は「楽曲分析の手法を用いた合奏指導法試論Ⅲ」の論考にまとめており、2022年8月に刊行予定である。 このように、コロナ禍における代替措置としての当初予定の研究内容はほぼ達成できたといえるが、湯浅の体調不良もあり、当初予定していた彼のピアノ協奏曲に関するオーケストレーション研究を十全に行えなかったことから、やや遅れが生じていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍が続き、分析対象楽曲のライブ聴取については、一般公開の演奏会そのものが再開されないことには参画することができない。また、予定している海外在住の研究者・スペシャリストの招聘についても、国際的な往来の緩和が実現しないと困難である。さらに、研究対象の作曲家を訪問して、貸与することができない作曲ノート等を閲覧しながらのインタビューも、現時点では困難であることから、研究期間の延長を行ったが、今後もコロナ禍の終息状況を見ながら、柔軟な研究計画の変更や順序の入れ替え等を行う必要があると感じている。 現時点では、湯浅譲二の管弦楽伴奏版歌曲である「おやすみなさい」と、細川俊夫がバンベルク交響楽団の委嘱によって管弦楽用に編曲した「さくら」を取り上げ、演奏実践を通して楽曲分析を行う計画を立てており、コロナの状況を見て、可能であれば当初予定していた海外在住スペシャリストの招聘を行いたいと考えている。それが困難な場合は、昨年度同様、これまで収集した諸情報をもとに、湯浅、細川の管弦楽曲に限らず幅広い作品を対象として楽譜に依る楽曲分析を進める。 また、作曲家へのインタビューについては、Zoom等を通したオンラインやメールインタビューに切り替え、随時、必要な情報提供を依頼したい。必要に応じて、対象作曲家以外の、先行研究従事者からの情報提供の充実を図り、対面に依る情報収集の不足を補いたい。作曲者本人からの作曲統合過程の情報収集が不足する場合は、対象楽曲の分析研究に留まらず、本研究の基盤となる、より汎用的な楽曲分析研究に関する研究発表をも試みる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によって、年度末に予定していた欧州での情報収集を行うことができず、関係の旅費相当が次年度使用額へと移行されることになったため。 新型コロナ感染症の収束状況にもよるが、前年度分の情報収集を次年度に移行して実施する予定である。コロナ禍等が継続し渡欧が困難な場合は、主に楽譜による研究に分析手法を切り替え、研究対象者へのオンライン/メール・インタビューを中心に情報収集を行う。
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