2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00221
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
河添 達也 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (20273914)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 作曲 / 管弦楽法 / 楽曲分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代日本を代表する作曲家 湯浅譲二(1929-)と細川俊夫(1955-)の作品および音楽思考の研究を通して、彼らの日本伝統音楽受容の実態を明らかにし、さらに同時代の西洋人作曲家作品との比較分析を行うことで、日本人作曲家作品における伝統音楽受容の独創性を探ろうとする試みが、本研究の全体構想である。 なかでも、作品のオーケストレーション(管弦楽法)を作曲技法の観点から分析することに主軸を置き、音響化の具体的事象を明らかにする点にも特徴がある。 2020年度末以降、コロナ禍による演奏会の自粛要請等により、予定していた海外での事例研究や専門家の招聘等を見送らざるをえなくなったことから、これまでに入手した楽譜を研究素材とする譜面上の楽曲分析研究へとその主眼を切り替えた。特に2022年度は、両作曲家の編曲作品の実演を通して、その管弦楽法の特徴に関する分析を試みた。 具体的には、湯浅譲二の「おやすみなさい」管弦楽伴奏版と、細川俊夫の管弦楽作編曲楽曲「さくら」を、筆者の指揮による「島根大学管弦楽団定期演奏会」(2022年11月26日)によって演奏し、その成果発表を行った。前者は、2017年に島根大学の委嘱によって湯浅自身が編曲した管弦楽伴奏版だが、今回、実演を通して誤植の修正等を行い、完成稿を提示した。細川の「さくら」では、敢えて主旋律が伴奏音響の中に埋もれるように施された管弦楽法に着目し、そこから雅楽や能楽からの受容の様相を読み取った。 また、細川の編曲作品「J.S.Bach”人よ汝の罪の大きさを嘆け”」に関する細川自身へのメールインタビューを通して、作品成立の経緯を確認した。これらの研究成果を、「楽曲分析の手法を用いた合奏指導法試論Ⅲ」の論考にまとめ、2022年12月に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、湯浅譲二の「室内オーケストラのためのプロジェクション」と「おやすみなさい」の楽曲分析と演奏実践を行い、前者では日本伝統音楽の間(ま)との関連性やオーケストレーション上の重層感、旋律線のフィギュアに注目して合奏指導法的視点から論じた。後者については、その管弦楽法の特徴を歌詞の描写性の推移と関連付けて論じた。また、湯浅と武満徹の映画音楽や映像音楽に対する描写性の思考について、彼らの自著から整理し、西洋人作曲家作品との比較研究を行った。これらの成果を「楽曲分析の手法を用いた合奏指導法試論Ⅱ」および「視覚と聴覚の関連性に着目した高等学校芸術科(音楽)における教材開発研究」の2編の論文にまとめ、『島根大学教育臨床総合研究』誌において2021年8月に公表した。 2021年度は、細川俊夫がJ.S.Bachのオルガン作品を弦楽四重奏用に編曲した作品「人よ汝の罪の大きさを嘆け」を取り上げ、弦楽合奏で演奏実践を行うとともに、オーケストレーションの視点から分析を試みた。また、細川本人へのメールインタビューを通して、作品成立の経緯に関する事実確認を行った。作曲者本人による貴重な言説を含むこの成果を「楽曲分析の手法を用いた合奏指導法試論Ⅲ」の論考にまとめ、前掲稿同様『島根大学教育臨床総合研究』誌において2022年12月に刊行した。 2022年度は、湯浅の「おやすみなさい」の演奏実践を通した楽譜校訂研究を行うとともに、細川編曲作品の「さくら」を取り上げて、その特徴的な管弦楽法と日本伝統音楽との関連性について分析的研究を行った。 このように、コロナ禍における代替措置としての当初予定の研究内容はほぼ達成できたといえるが、当初予定していた同時代の西洋人作曲家作品との比較分析研究を十全に行えていないことから、やや遅れが生じていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍が続き、分析対象楽曲のライブ聴取や予定している海外在住の研究者・スペシャリストの招聘を実現することができなかったことから研究期間の延長を行ってきたが、これまでの楽曲分析や実演の成果をもとに、最終的な研究の取りまとめを行いたい。コロナ禍によって、当初予定していたすべての研究計画を遂行できたわけではないが、これまでの研究成果を最大限に活用するとともに、今後の感染状況を鑑みながら、柔軟な研究計画の変更や順序の入れ替え等を行う必要があると感じている。 現時点では、最終年度となる2023年度に、細川俊夫がバンベルク交響楽団の委嘱によって管弦楽用に編曲した「さくら」を再度取り上げ、演奏実践を通して楽曲分析を行う計画を立てており、可能であれば当初予定していた海外在住スペシャリストの招聘を行いたいと考えている。それが困難な場合は、国内の専門的技量提供者の共同を得て、精緻な楽曲分析を行い、作曲家へのインタビューを通して、作品成立の経緯および日本伝統音楽受容の具体について確認し、貴重な一次資料を含む分析成果を学術論文としてまとめたい。 作曲者本人からの作曲統合過程の情報収集が不足する場合は、対象楽曲の分析研究に留まらず、本研究の基盤となる、より汎用的な楽曲分析研究に関する研究発表をも試みる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によって、年度末に予定していた欧州での情報収集を行うことができず、関係の旅費相当が次年度使用額へと移行されることになったため。 今年度は、新型コロナ感染症の一定程度の収束が見込めるが、研究の最終年度であることから、研究対象作品の演奏実演を通した楽曲分析に主軸を置き、演奏に参画する国内の専門的技量提供者への謝金へと移行して実施する予定である。
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